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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)2275号 判決

昭和五六年(ネ)第二二七五号事件控訴人兼同年(ネ)第一七九一号事件被控訴人

福本龍藏

外一〇四名

昭和五六年(ネ)第二二七五号事件控訴人

中島ウメ

外二一名

右(田中勝利、宮崎信夫を除く)訴訟代理人弁護士

森川金寿

高橋修

四位直毅

太田雍也

榎本信行

島林樹

岩崎修

盛岡暉道

古沢清伸

成瀬聰

関島保雄

大山美智子

葛西清重

肥沼隆男

吉田健一

右田中勝利・宮崎信夫訴訟代理人弁護士

成瀬聰

葛西清重

吉田健一

山本哲子

右福本龍藏の訴訟代理人弁護士

森田太三

山本英司

小林政秀

山本哲子

佐々木良博

井口克彦

吉田栄士

中杉喜代司

佐川京子

昭和五六年(ネ)第一七九一号事件控訴人兼同年(ネ)第二二七五号事件被控訴人

右代表者法務大臣

遠藤要

右訴訟代理人弁護士

藤堂裕

右指定代理人

三木勇次

外一七名

(以下、昭和五六年(ネ)第二二七五号事件控訴人、同年(ネ)第一七九一号事件被控訴人を「原告」と表示し、昭和五六年(ネ)第二二七五号事件被控訴人、同年(ネ)第一七九一号事件控訴人を「被告」と表示する。)

主文

一  昭和五六年(ネ)第二二七五号事件について

1  原判決主文第2、3項を次のとおり変更する。

(一)  被告は各原告に対し、各原告の昭和六二年一月二八日までに生じたとする損害賠償請求のうち、それぞれ(1)並びに(2)の各金員を支払え。

(1) 本判決別表第一・1・2各損害賠償額欄記載の各金員

(2) 右(1)の各金員に対する本判決別表第二記載の期間についての年五分の割合による各金員

(二)  各原告の昭和六二年一月二八日までに生じたとする損害賠償請求のうちその余の請求をいずれも棄却する。

(三)  各原告の昭和六二年一月二九日以降に生ずるとする将来の損害賠償請求部分にかかる訴えをいずれも却下する。

2  原判決主文第1項の航空機の離着陸等による騒音発生行為の差止請求にかかる訴えを却下した部分に対する各控訴は、いずれもこれを棄却する。

3  当審における新たな請求である航空機の離着陸等による騒音発生行為の差止請求及び本判決別表第三記載の各原告の電気料金相当損害金の金員請求をいずれも棄却する。

二  昭和五六年(ネ)第一七九一号事件について

本件各控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、本判決別表第三記載の各原告の電気料金相当損害金の金員請求により生じた費用は右各原告の連帯負担とし、その余の費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を各原告の連帯負担とし、その余を被告の負担とする。

四1  この判決は第一項1・(一)・(1)に限り仮に執行することができる。

2  被告が担保として本項1の各金員の八〇パーセントに相当する各金員を供するときは仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告らの控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

(一) 被告は原告らのためにアメリカ合衆国軍隊をして、毎日午後九時から翌日午前七時までの間、横田飛行場を一切の航空機の離着陸に使用させてはならず、かつ原告ら居住地において五五ホン以上の騒音となるエンジンテスト音、航空機誘導音等を発する行為をさせてはならない。

(二) 被告は原告らに対し、原判決各認容部分を含め、それぞれ一一五万円並びにこれに対する別紙当事者目録当審原告番号1ないし34(24欠番)の原告らに対しては昭和五一年五月二二日から、その余の原告らに対しては昭和五二年一二月一〇日からそれぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 被告は、別紙当事者目録当審原告番号1ないし34(24欠番)の原告らに対し昭和五一年四月二八日から、その余の原告らに対し昭和五二年一一月一七日から、それぞれ本項(一)の夜間離着陸及び騒音がなくなり、かつその余の時間帯においても、右飛行場の使用に基づく騒音が原告ら居住地において六〇ホンを超えることがなくなるまで、当該月末日限り一か月金二万三〇〇〇円並びにこれに対する当該月の翌月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2(一)  当審における新たな差止請求

被告は原告らに対し、毎日午後九時から翌日午前七時までの間、原告ら居住家屋内に、横田飛行場より五五デシベル(C)を超えるエンジンテスト音及び航空機誘導音並びに同飛行場に離着陸する航空機から発する五〇デシベル(A)を超える飛行音を到達させてはならない。

(二)  当審における新たな金員請求

(1) 被告は、別表第三記載の原告らに対し、それぞれ同表損害額(一)欄記載の各金員及びこれに対する昭和六二年一月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

(2) 被告は、右原告らに対し、それぞれ昭和六二年一月一日から、第1項(一)又は第2項(一)各記載の夜間離着陸及び騒音がなくなり、かつその余の時間帯においても、右飛行場の使用による騒音が右原告ら居住地において六〇ホンを超えることがなくなるまで、当該年末日限り一か年同目録損害額(二)欄記載の各金員並びにこれに対する当該年の翌年の一月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  原告らの控訴の趣旨に対する被告の答弁

1  控訴棄却

2  当審における新たな請求につき請求棄却

三  被告の控訴の趣旨

1  原判決中、被告勝訴部分を除きこれを取消す。

2  原告らの被告に対する請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも原告らの負担とする。

四  被告の控訴の趣旨に対する原告らの答弁

控訴棄却

五  被告の民訴法一九八条二項による申立

1  原判決添付別表第一・(一)及び同(二)記載の各原告(ただし、原告阿武功、同佐藤百合子、同永山信之、同小山久子、同吉岡佳子、同鹿島行雄、同樋口金二郎(承継人 樋口キヤ、高橋陽子、樋口康彦、樋口邦男)、同平井建治、同鎌田満子を除く。)は、被告に対し、同表慰藉料欄及び弁護士費用欄記載の各金員並びに右各金員に対する昭和五六年七月一四日以降支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  仮執行宣言

六  右申立に対する原告らの答弁

申立棄却

第二  当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示及び別冊書面一(原告)、同二(被告)記載並びに当審証拠目録記載のとおりである。

ただし、原判決事実摘示のうち、同三〇頁の「弁護士委任」の次に、「契約を原告ら訴訟代理人と結び、弁護士報酬として損害賠償認容額の一五パーセントを支払う旨を約したので、そ」を加え、同四四頁三行目の「存り方」を「在り方」に、同九三頁四行目の「WECPNL値」を「WECPNL(Weighted Equivalent Continuous Perceived Noise Levelの略)値(以下「W値」という。)」に改める。

なお、被告は、当審において、次のとおり述べた。

前記第一、五、1記載の各原告は、被告に対し、昭和五六年七月一三日、仮執行宣言付き原判決に基づき東京地方裁判所八王子支部有体動産差押事件をもつて同別表慰藉料欄及び弁護士費用欄記載の各金員の強制執行をしているから、民訴法一九八条二項により右各原告に対し右第一、五、1記載の金員の支払を求める。

理由

第一本件訴訟の性格(訴訟物)

本訴は、原告らの主張に徴すれば、通常の民事訴訟事件であつて行政訴訟事件ではなく、又、通常共同訴訟であつて必要的共同訴訟ではない。従つて、その訴訟物は原告ら各個人がそれぞれ有すると主張している私法上の権利である。原告らは、右の権利として、人格権及び環境権に基づく差止請求権と金員請求権を主張している。そこで、これらの権利が実定法上の根拠を有するものであるかどうか、又、有するとすれば、どのような要件の下にどのような効果を生ずるのか、ということがまず検討されなければならない。

一人格権

1 人格権という言葉は、法律用語として必ずしも熟しているものということはできないが、通常は、人が人格を有し、これに基づいて生存しかつ生活をして行く上で有する諸々の権利の総称として使用されているといえよう。そうして、すべての人にこの意味での人格権を認めるべきことは当然であり、その実定法上の根拠は、民法七〇九条、七一〇条の中に見出すことができる。すなわち、民法七〇九条はすべての権利は侵害から保護されるべきことを規定し、同法七一〇条は右権利の中には財産権のみでなく、人の身体、自由及び名誉が含まれることを規定している。右の規定によつて人格権としての身体権、自由権及び名誉権が認められたものと解すべきであるが、これらは人格権の例示とみるべきである。なんとなれば、人格は人の生活のすべての面において法律上の保護を受けるべきものであるから、生活のそれぞれの局面においてそれに相応するそれぞれの権利が認められるべきであるからである。例えば、本件に即していえば、人は、人格権の一種として、平穏安全な生活を営む権利(以下、仮に、平穏生活権又は単に生活権と呼ぶ。)を有しているというべきであつて、騒音、振動、排気ガスなどは右の生活権に対する民法七〇九条所定の侵害であり、これによつて生ずる生活妨害(この中には、不快感等の精神的苦痛、睡眠妨害及びその他の生活妨害が含まれる。)は同条所定の損害というべきである(右の生活権は、身体権ないし自由権を広義に解すれば、それらに含まれているともいえるが、それらとは区別して右に述べたような意味で使うこととする。これは被害の態様からみると身体傷害にまでは至らない程度の右のような被害に対応する権利である。)。

なお、原告らは人格権の根拠として、憲法一三条が国民は個人として尊重される旨を規定し、同法二五条が国民は健康で文化的な生活を営む権利を有する旨を規定していることを挙げるが、これらの憲法の規定は、国の施策の基本方針を定めた所謂綱領規定と解すべきであつて、これらの規定から直接に具体的な私法上の権利が生ずるものと解することはできない。

2 人格権としての生活権又は身体権に対して侵害を受けた者は、加害者に対して、不法行為に基づく権利として、民法七〇九条、七一〇条、七二二条によつて金銭的損害賠償請求権を有するが、そのほかに、物上請求権と同質の権利として、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害行為を予防するため、侵害行為差止請求権を有するものと解すべきである。なんとなれば、生活権及び身体権は極めて重大な保護法益であるから、物権の場合と同様に、排他性を認めるべきであるからである(最高裁昭和五六年(オ)六〇九号事件同六一年六月一一日大法廷判決・民集四〇巻八七七頁参照)。

二環境権

人の生活はそれを取り巻く環境の中で営まれるものであるから、人が良い環境を享受することは勿論望ましいことである。しかし、現在の法体系の下では、良い環境を享受支配する権利として所謂環境権と呼ぶべき権利を認めるべき実定法上の根拠を見出すことができない。前記憲法の諸条文が綱領規定であることは既に述べたとおりであるし、他に成文上は勿論、慣習上又は判例法上も環境権を認める余地はないものといわなければならない。思うに、環境は非常に多くの要素から構成されているものであるから、私人に明確な内容を有する環境権を与えることは立法上裁判上極めて困難であり、適当とはいえないであろう。標準的な意味での良い環境の確保は、前記の人格権その他の私権を認めることで十分実現することができる筈である。勿論、一般的に、国がその政治的責任において良い環境の整備確保に努めることが望ましいことはいうまでもないところである。

以上のように、本訴は、原告ら各個人が各自有する人格権としての生活権及び身体権を訴訟物とする請求として認めることができるが、原告らが個人として又は総有的に全員で有すると主張する所謂環境権を訴訟物とする請求としては認めることができないといわなければならない。そして、原告ら主張の原告ら居住地域の環境破壊の程度及び被告主張のその防止策の効果等の各事実は、環境権に基づく請求に関するものであつて、生活権及び身体権に基づく請求における要件事実となるものではないと解すべきであるから、これらについては必要に応じて判示するにとゞめることとする。

三差止請求権

1 人格権としての生活権又は身体権を有する者は、前示のように、侵害行為の差止請求権を有するが、それは侵害行為者に対してであつて、侵害行為をしていない第三者に対してではないことはいうまでもないところである。本件における侵害行為者は、横田基地を管理し、かつ、これを本拠として活動している米軍であつて、第三者である被告ではない。従つて、本訴のいわゆる差止請求の部分のうち、主位的請求の趣旨は、その趣旨が必ずしも明確ではないが、それが直接的に米軍の行為の停止を求める趣旨であるならば、被告は被告適格を欠くことになるから、この点で右請求は不適法として却下されるべきことになる。又、右請求の趣旨が被告自身に対して給付を求める趣旨であるならば、どのような具体的行為を求めるのか明確でなく、その点で不適法であるというのほかはない。そして、もし、被告に対して求める行為が予備的請求の趣旨と同旨であるならば、それについては次に判示するとおりである。

2  次に、原告らは、当審において、予備的請求を追加し、差止請求の内容として、被告が米軍に対して米軍の侵害行為を停止させるのに有効な作為又は不作為、例えば、飛行計画の不承認、便益供与の停止、日米合同委員会における協議又はその他の外交交渉等を行うことを求めている。この請求は、直接の侵害行為者である米軍を相手方とするものではなく、又、侵害行為自体を停止することを求めているものではない点で、妨害排除(予防)請求権としての差止請求権とは異なるものである。強いていえば、結果的に侵害行為の停止を目的としている点でいわば間接的差止請求権とでも呼ぶべきものである。そこで、実定法上このような権利を認めることができるかどうかその私法上の根拠が検討されなければならない。

原告らは、まづ、被告が米軍に対して基地を提供していることによつて侵害行為の共同行為者となつていると主張し、これを理由として右の請求権を有する旨主張するが、不法行為の被害者は、特段の規定のない限り、加害者に対し損害賠償請求権のほかに差止請求権を有するものと解することはできないのであるから、右の主張はそれ自体失当というべきである。のみならず、右基地提供の事実から被告を米軍との共同不法行為者と認めることはできない。

次に、原告らは、物権的請求権を主張し、物権的請求権としての差止請求権の相手方とされるべき者は、みずから物権の妨害状態を生ぜしめた者に限らず、「その者の支配に属する事実によつて物権の侵害状態を生ぜしめている者」をも含むのであり、被告は米軍に対して様々な便益を提供していることによつて侵害行為に加担しているのであるから、これに当たると主張するが、そのような者とは、例えば、第三者がA地の土砂を取つたため隣地のB地が崩壊しかかつたときにおけるA地の所有者を指すのであり、かつ、その請求の内容は直接の侵害行為の排除(予防)であつて、本件の被告及びこれに対する請求の内容は右の場合に当たるものということはできない。

又、たとえ原告ら主張の便益供与の事実が存在するとしても、そのことを要件として原告ら主張の請求権が生ずるものと解することはできない。その理由は次のとおりである。思うに、物権のように排他性を有する権利に対する侵害を排除又は予防するために被害者に与えられるべき救済方法としては、直接に加害者に対して侵害行為を停止すべきことを求める侵害行為差止請求権を認めることが最も有効適切であり、従つてそれだけで十分である。人格権の場合も例外ではない。たとえ第三者と加害者との間に何らかの契約関係等が存在し、これが加害行為の一因をなしていると考えられ、従つて右契約関係を絶つならば加害行為の停止に役立つであろうと認められる場合であつても、救済方法として、既に加害者に対する直接的な差止請求権を認める以上、これに加えて、第三者に対して加害者との契約関係の解消を請求する権利を認めることは救済方法としては間接的で不十分であるから、不必要である。それのみならず、このような権利を認めることは、被害者にとつては他人である人達の間の契約関係に介入し契約当事者の一方に他方に対する債務不履行をなすことを求めることになる訳であるから、甚だしく穏当を欠き適当ではないというべきである(例えば、隣家の所謂カラオケ騒音や工場騒音が耐え難いとき、被害者のためには隣家の住人に向つてカラオケ騒音等の停止を請求する権利を認めれば十分であり、隣家が借家の場合その賃貸人に向つて賃借人である隣家の住人に対して立退を要求するよう請求する権利や電力会社に向つて隣家に対する電力の供給を停止するよう請求する権利を認めることは許されないというべきである。本件のように、契約関係が条約に基づくものである場合は、不適当であることが一層明らかである。)。

そして、以上の理は、直接の加害者がたまたま外国の軍隊であるため、これに対して差止訴訟を提起してもその外国が応訴しない限り我が国の裁判権が及ばないということによつても変ることはないものといわねばならない。

もつとも、右のような場合、被害者救済のために、国内的に種々の立法がなされることはあり得る。その場合には、そのような法の定める要件の下に、救済手段が与えられることになる。本件においては、それが民特法であり、生活環境整備法である。しかし、これらの法に定められていない救済手段はやはり認められていないのであり、その当否は立法政策の適否の問題であつて、裁判に親しむ問題ではない。民特法は損害賠償請求権を認め、生活環境整備法は各種の補償請求権を認めているが、右の法律又はその他の法律中に、原告らの求めるような被告に対する間接的差止請求権を認めた規定を見出すことはできない。

以上のとおりであるから、所謂差止請求のうち当審において追加された予備的請求は、原告らの主張する被告の米軍ないし本件飛行場に対する権利の内容や被告の主張する本件飛行場の公共性の程度などを検討するまでもなく、主張自体失当として棄却するほかはないのである。

四金員請求権(損害賠償請求権)

1 相手方の侵害行為により人格権としての生活権又は身体権に被害を受けた者は、相手方に対して損害賠償請求権を有することは前に述べたとおりである。しかし、損害賠償請求権も、差止請求権と同様に、加害者に対してのみ請求し得るものであつて、第三者に対して請求し得るものではない。本件において直接の加害者は米軍であつて、被告ではないのであるから、被告に対して不法行為を理由とする損害賠償を請求し得ないことは、右に差止請求権について判示したところと同じである。

2 しかし、損害賠償請求権の場合は、差止請求権の場合と違つて、民特法が特に制定されており、米軍が直接の侵害行為者である場合被告が米軍の責任を肩代りする形の法条が存在するので、被害者は右法条の要件の下で、被告に対して損害賠償を請求することができる。そこで、次に、民特法の要件について検討する。

民特法一条は、米軍の構成員又は被用者がその職務を行うについて違法に他人に損害を加えたことを要件としている。本件において問題となつている航空機騒音等は横田基地に離着陸する米軍機によるものであり、右米軍機の飛行は米軍の構成員又は被用者がその職務を行うについて実施しているものであることはいづれも当事者間に争いないところであるから、原告らの主張は、右騒音について違法性が認められる限り、本条の要件を満たすものであるというべきである。この場合、事柄の性質上、米軍機の飛行に関与した各個人の特定までは必要がないと解するのが相当である。

なお、被告は、民特法一条の違法性を判断するには、新安保条約等の効力や米軍の配置等についての判断がその前提をなすかのような主張をするが、採用できない。行為の主体が合法的な存在であつても個別的に違法な行為をすることがあり得ることは不法行為法上全く異論をみないところである。問題は米軍の具体的行為の違法性の有無であり、その行為をした米軍がどういう根拠でどんな工合に存在しているかは問うところではない。そうでないならば民特法が適用されるケースは無くなつてしまう。要するに、本件は、米軍機の墜落や米軍兵士の暴行によつてわが国民に損害が生じた場合と少しも異なるところはないのである。

次に、同法二条は、米軍の管理する営造物の設置又は管理に瑕疵があつたため他人に損害が生じたことを要件としている。最高裁昭和五一年(オ)三九五号同五六年一二月一六日大法廷判決(民集三五巻一三六九頁)は、右規定と同一文言の規定である国家賠償法二条一項の趣旨について、「国家賠償法二条一項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が有すべき安全性を欠いている状態をいうのであるが、そこにいう安全性の欠如、すなわち、他人に危害を及ぼす危険性のある状態とは、ひとり当該営造物を構成する物的施設自体に存する物理的、外形的な欠陥ないし不備によつて一般的に右のような危害を生ぜしめる危険性がある場合のみならず、その営造物が供用目的に沿つて利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含み、また、その危害は、営造物の利用者に対してのみならず、利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解すべきである。すなわち、当該営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りにおいてはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなくても、これを超える利用によつて危害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には、そのような利用に供される限りにおいて右営造物の設置、管理には瑕疵があるというを妨げず、したがつて、右営造物の設置・管理者において、かかる危険性があるにもかかわらず、これにつき特段の措置を講ずることなく、また、適切な制限を加えないままこれを利用に供し、その結果利用者又は第三者に対して現実に危害を生ぜしめたときは、それが右設置・管理者の予測しえない事由によるものでない限り、国家賠償法二条一項の規定による責任を免れることができない」と判示しており、当裁判所も右と同意見であるが、その趣旨は右法条と同一文言の規定である民特法二条にもそのまゝ妥当するものというべきである。

ところで、被告は、右判示により、国家賠償法二条の実体法上の要件として、(一)営造物が危害を生ぜしめる危険性のある状況にあること、(二)設置管理者が右危険性につき特段の措置を講じないこと、(三)危害の発生が設置管理者の予測しえない事由によるものでないことの三個が示されたものと解している。しかし、同条の立法趣旨は客観的な瑕疵の存在に基づく被害の救済にあると考えられるから、請求原因としては、(一)の要件のみを主張すれば足りると解すべきである。(二)の要件は、特段の措置を講じなかつたことが請求原因ではなく、これを講じたことが抗弁になるというべきであるが、通常、特段の措置を講じれば危険性は消失する筈であるから、これは抗弁ではなく、むしろ、特段の措置は講じなかつたがそれには正当な事由があるということ、即ち、危害発生の回避可能性のないことが免責事由として抗弁となるものと解すべきである(最高裁昭和四六年(オ)八八七号同五〇年六月二六日一小判決・民集二九巻八五一頁参照)。又、(三)の要件は、不可抗力を免責事由とするものであるから、抗弁であることは明らかである。

なお、被告は、国は本件飛行場における航空機の運航活動を規制する権限を有していないから、危害発生の回避可能性がないと主張するが、民特法二条の適用上右の回避可能性の有無が問題となるのは営造物の設置管理者である米軍についてであり、第三者である国についてではないのであるから、右主張は失当である。同条所定の国の損害賠償責任は、米軍の施設である本件飛行場の設置管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、直ちに発生するのであつて、右飛行場の管理運営に対する国の権限の有無は全く関係がないのである(なお、米軍について回避可能性がなかつた旨の主張はなされていない。)。

以上のように、本件は民特法一条と二条の双方が適用される事件であるが、本件においては右両法条の要件に当たる具体的事実は相互に密接な関係にあるので、以下においては総合して判示することとする。

3  原告らは、民特法の適用と選択的に、国家賠償法の適用も主張するが、原告ら主張の被告の行為はいづれも原告らに対する侵害行為に当たると解することはできず、また本件飛行場は被告の設置管理するものと認めることはできないから、右主張は採用することができない。

4  なお、将来の損害の賠償請求及び電気料金相当損害金の金員請求については後述するとおりである。

第二侵害行為

一横田飛行場の沿革と現況

原判決二〇九頁三行目の「横田飛行場」から二一一頁一〇行目までを引用する。

二原告らの居住地

同二一四頁二行目の「判断の便宜上」から二一五頁三行目までを引用する。たゞし、次のとおり訂正する。

1  同二一四頁末行目の「と、原告ら」から二一五頁三行目「となる」までを削る。

2  同二一五頁三行目の次に、次のとおり加える。

「なお、後記のとおり、原告らの現在の居住地は本判決別表第一・1・2の居住地欄記載のとおりであり、〈証拠〉によれば、各原告の右居住地は第一、二種住居専用地域、住居地域、近隣商業地域、準工業地域に散在しているが、特に原告板倉金吉、同水島フミ子、同山田好文、同仲村清信、同小松利夫、同緒方高次、同菅原喜久子、同松本平九郎、同酒枝尚雄、同土方美千子、同山嵜裕弘、同小林達三、同臼井愛子ら(以下「原告板倉金吉ほか一二名」という。)の居住地はいずれも後記の類型Ⅰに属する第一種又は第二種住居専用地域内に存することが認められる。」

三航空機騒音

同二二七頁一一行目から二六二頁三行目までを引用する。たゞし、次のとおり訂正する。

1  同二二九頁七行目の「検討する。」の次に、次のとおり加える。

「なお、原審証人西田寿快の証言によれば、被告(東京防衛施設局)は本件横田基地の南北に各一ケ所ずつ自動記録装置を設置し、同基地に離着陸する米軍機の飛行回数を記録していることを窺知し得るところ、被告国が右記録結果を当法廷に全然提出しないところからすれば、原告ら提出にかかる調査資料につき特段これに対して反論する意思のないものと推認する。」

2  同二二九頁一三行目及び同二五三頁九行目の「三條敏郎」を「三條俊郎」に、同二二九頁一三行目ないし末行目の「第一回ないし第五回各現場検証の結果」を「現場検証(原審第一回ないし第五回、当審第一回ないし第六回各検証)の結果」にそれぞれ改める。

3  同二三二頁一〇行目の「進入する」の次に「(ただし、右ミドルマーカーは、昭和五九年二月以降使用停止となつたが、進入経路に変更はない。)」を加える。

4  同二三五頁八行目の「以降」を「より昭和五四年一二月末まで)、第五期(昭和五五年一月より昭和六二年一月二八日まで)」に改める。

5  同二三五頁一〇行目の「第八号証」の次に「第一一号証」を加え、「第九三」を「第九二」に改め、一二行目の「第一三〇号証、」の次に「第一三二号証、第一三三号証、第一三六号証、第一七八号証」を加える。

6  同二三六頁一行目の「五一六」の次に「第三〇〇号証、第三五三ないし第三五七号証、第三六六号証、第三七七ないし第三八二号証、第四三七号証」を、同六行目の「六九九、」の次に、「第七三号証、」を、末行目の「三二、」の次に、「同第四七六号証、同第四七八号証」を加える。

7  同二三七頁一行目の「並びに」の次に「原審」を加える。

8  同二三九頁一〇行目の「昭和三九年」の次に「一〇月」を加える。

9  同二五二頁三行目の次に、次のとおり加える。

「(第五期)

第五期における昭島市の観測結果(測定地点は昭島市拝島三九二七―二拝二小三階校舎屋上)は、本判決付表Ⅰ記載のとおりである。騒音(七〇ホン(A)以上)の発生回数は、昭和五五年一万三五三五回(一日平均三八・三回)、同五六年一万一九九六回(一日平均三二・九回)、同五七年一万二七一四回(一日平均三五・〇回)、同五八年一万一五一七回(一日平均三四・四回)、同五九年一万二七九六回(一日平均三五・三回)、同六〇年一万六〇六七回(一日平均四八・三回)となつており、第四期における観測結果とほぼ同じ数値を示している。

一方、東京都の観測結果(測定地点は前期と同様昭島市大神町三九一―一民家庭先地上一・五メートル)は本判決付表Ⅱ記載のとおりである。騒音(七〇ホン(A)以上)の発生回数は、昭和五五年一万四一二六回(一日平均三八・六回)、同五六年一万一九八三回(一日平均三二・八回)、同五七年一万二七六四回(一日平均三五・〇回)、同五八年一万二六三八回(一日平均三四・六回)、同五九年一万二九六〇回(一日平均三五・四回)、同六〇年一万二〇四一回(一日平均三三・〇回)となつており、大神町測定所における同期の騒音ピークレベルのパワー平均値(年間)は九六dB(A)と九四dB(A)との間を推移し、また、WECPNLの年間値も八七と八五の間を推移しており、第四期における観測結果とほぼ同じ数値を示している。

そして、東京都・昭島市それぞれの時間別(日中・夜間別)飛行回数の観測結果は、本判決付表Ⅲ記載のとおりであり、これによると、日中(午前七時以後午後一〇時までの時間帯)の飛行回数は連年ほぼ同数であり、変化はないが、夜間(午後一〇時以降翌午前七時までの時間帯)の飛行回数は、昭和五六年以降はそれ以前に比べ年平均約三五パーセント減少している(本判決付表Ⅳ、Ⅴ。ただし、昭和六〇年度及び後記のとおり同六一年度前半において再び大幅に回数の増えていることが注目される。)。また、日曜日における飛行回数も昭和五七年以降はやや減少の傾向にある(本判決付表ⅥⅦ記載のとおり。)。

なお、昭和四五年以降昭和六〇年までの間における一日平均騒音発生回数の推移を示す図表は本判決付表Ⅷ、騒音ピークレベルのパワー平均値(年間)、WECPNLの年間値並びにこれらの推移(昭和四八年から昭和六〇年まで)を示す図表は本判決付表ⅨⅩ各記載のとおりである。

ところで、以上は拝二小と大神測定所の二ケ所における資料に基づく認定判断であるが、右測定資料間に、特に昭和六〇年度における発生回数には四〇〇〇回以上に及ぶ差異のあることが認められる(因みに、〈証拠〉によれば、昭和六一年一月から六月までの間の騒音発生回数合計は七六一七回であり、一日平均五〇・四回であることが認められる。)。右は測定場所の相違に起因することも考えられる(前記のとおり、拝二小は横田飛行場滑走路南端から約一一〇〇メートルの地点に所在するのに対し、大神測定所は同飛行場滑走路南端から約三キロメートル離れた地点に所在している。)し、さらに、〈証拠〉によると、旋回訓練機の騒音を相当数見落していることによるのではないかとも考えられること、加えて、〈証拠〉の記載によると、測定機械の故障による欠測の場合も稀ではないことも窺われるのであり、つまるところ、右測定値の差異はこれらに起因するものと認められる。いずれにしても、右二か所の測定所の測定資料のみでは、本件飛行場周辺の騒音発生回数を一〇〇パーセントとらえているものとはいい難いものである。」

10  同二五二頁六行目「第一五二号証の四ないし六、」から二五三頁六行目の「一〇五」までを「乙第五六号証の三、一三、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一五二号証の一ないし四〇、同第一七七号証の一ないし一〇五」に改める。

11  同二五三頁七行目の「第三三二号証、」を「同第三三二号証ないし」に改める。

12  同二五八頁九行目の「現場検証」の次に「(原審)」を加える。

13  同二五九頁一〇行目の「ビデオ検証」の前に「原審」を加える。

14  同二六一頁二行目の次に、次のとおり加える。

「5 被告の東京防衛施設局事業部職員らが昭和五五年二月八日午前六時二〇分から同八時四五分までの間、原告金井和夫宅において観測したところによれば、DC―8、C―141、ヘリ等の誘導音、離着陸音につき、屋外で九七ホンないし六三ホン(九〇ホン台三回、七〇ホン台五回、六〇ホン台二回)、屋内では七五ホンないし四九ホン(七〇ホン台四回、六〇ホン台三回、五〇ホン台一回、四〇ホン台二回)がそれぞれ記録された。(乙第五六号証の一ないし二一、同第五七号証)」

15  同二六一頁五行目の「第一回」の前に「原審」を加える。

16  同二六二頁三行目の次に、次のとおり加える。

「なお、被告は、原審及び当審における現場検証の際認識し得た騒音の実態は、電車自動車等の日常的に屋外に数多く存する騒音と大差のない程度であり、このことは、本件の航空機騒音全体を評価するに際して参酌されるべきであるという。

確かに、右各検証の結果のみに即していえば、各当該検証時間中の航空機騒音は全体として違法と評価するに足りない程度であつたといわざるを得ないであろう(原告らが強調するように、昭和六一年五月一六日実施の原告増田憲一宅での当審の検証結果では、同日午後一時二八分から二時五分の間六回にわたり、屋外で一〇八ないし九二ホン、屋内で一〇〇ないし七七ホンの轟音ともいうべき航空機騒音を聴取したが、これだけをとらえて横田基地の騒音全体を評価するわけにも行かない。)。しかし、右検証の目的は、軍用航空機の騒音の実体が日常生活上付近住民にどのような生理的心理的影響を与えるかという点を中心になされたものであつて、いわば一定期間中に発生する航空機騒音の流れの一断面をとらえ、これを五感により認識したにすぎないものであつて、二四時間継続して検証したわけではないのであるから、右検証の結果をそのまま付近住民の本件航空機騒音から受ける生活感覚そのものとして把握することは正しい評価の方法とはいえない。」

四排気ガスと振動

同二六二頁五行目から二七一頁五行目までを引用する。たゞし、次のとおり訂正する。

同二六二頁八〜九行目の「同第三二四号証、」の次に「乙第一〇一号証、」を、同頁九行目の「第五回現場検証」の次に「(原審)」を、「ビデオ検証」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加える。

五航空機の墜落及び落下物等の危険

同二七一頁七行目から二七四頁末行目までを引用する。たゞし、次のとおり訂正する。

同二七二頁八行目の「第一五二号証」及び「第一七七号証の一九」の前にそれぞれ「前掲甲」を、同九行目の「第三〇四号証の一六二、」の前に「原本の存在及びその成立に争いのない甲」を、同一一〜一二行目の「同福本龍藏」の次に「(原審)」をそれぞれ加える。

第三被害

一はじめに

原判決二七五頁三行目から二八〇頁八行目までを引用する。たゞし、次のとおり訂正する。

1  同二七五頁三行目から二七六頁九行目までを削り、そこへ次を入れる。

「1  本件損害賠償の請求は、前示のように、原告ら各個人が有する人格権としての生活権及び身体権を根拠とするものであるから、前記認定の航空機騒音等が右の各権利をどれだけ侵害して原告ら各個人にどのような被害を与えているかをそれぞれ個別的に判断しなければならないことは当然である。しかし、侵害行為は同一であり、原告らの生活権及び身体権も基本的な部分においては同一の内容を有する訳であるから、その結果原告らの被害も相当部分までは同一内容のものであるというべきである。そして、原告らが請求し、主張するところは、原告らはそれぞれさまざまな被害を受けているけれども、本件においては各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求めるのではなく、それらの被害のうち原告ら全員に共通する最小限度の被害、すなわち、一定の限度までの精神的被害、睡眠妨害、静穏な日常生活の営みに対する妨害及び身体に対する侵害等の被害について各自につきその限度で慰藉料という形でその賠償を求める、というのである。従つて、以下においては右の趣旨に沿つて被害の発生とその内容を検討することとする。

又、右のとおりであるから、被害の立証に当たつては、原告らの全員について各人別にそれぞれ個別的な被害を立証する必要はなく、一部の者について前記の被害が立証されるならば、他の者についても同種同等の被害は立証されたものというべきである(前出昭五六最大判参照)。そして、原告らは全員に共通する被害を主張しているのであるから、全員ではなく一部の者のみが被つたと主張する被害は本訴の請求原因ではなく立証の対象とはならないことになる。」

2  同二七六頁末行目の「原本の存在」の前に「成立に争いのない甲第三八六号証、同第三八七号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三八五号証、」を加える。

二精神的被害

同三五〇頁一一行目から三五八頁一〇行目までを引用する。たゞし、次のとおり訂正する

1  同三五一頁一行目の「第三三四号証」の次に「、成立に争いのない甲第三八六号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三六九号証の一ないし二五、二八ないし五一、五三、五六、五八ないし一〇六」を、「並びに」の次に「いずれも原審における」を、同五〜六行目の「各本人尋問の結果」の次に「、いずれも当審における原告金谷十藪、同福井彌助、同森田マサエ、同中島ウメ、同神崎清、同増田憲一、同御供所弘人、同山田好文、同土田志ん、同吉岡正美、同中島朋男、同福本龍藏各本人尋問の結果」をそれぞれ加える。

2  同三五二頁一二行目の「九月」を「一〇月」に、一三行目の「一〇名」を「九名」にそれぞれ改める。

3  三五八頁一〇行目の次に、次のとおり加える。

「(5)昭和六〇年一〇月七日NHK主催の講演会で、カール・D・クライター博士は、空港周辺のような高騒音地域の住民(例えば、オランダの某空港周辺)の六〇パーセントが、航空機騒音について恐怖を感じると答え、二五パーセントが、しばしば会話が妨げられる、一〇〜一五パーセントが睡眠が妨げられる、五パーセントが仕事が妨げられるとの回答を得たとの調査結果を報告し、心理学的には、恐怖は不安の最大の源であり、従つてまた生理学的ストレスの原因になりうると述べている。

なお、被告は、原告ら主張の被害は不存在であると主張し、〈証拠〉(「航空機騒音が一般住民に及ぼす影響に関する疫学的調査報告書」と題する書面)を提出するが、同報告書は、騒音による生理機能の変化が生じているという状況は認められないとして身体権の被害については否定しているが、航空機騒音による心理的あるいは精神的影響は存在し、W値の増加に対応して自覚症状の有訴率が増大するとして生活権の被害は肯定しているのである。

3  まとめ

以上に判示したように、航空機騒音は、一定限度を超えると、日常生活を営む人すべてに対して、焦燥感や不安感等の精神的被害を与えるものであり、騒音の程度が高まるに従つて、右の被害の程度も大きくなるものであり、本件の場合も例外ではない。そして、このことは経験則の示すところでもある。

なお、原告らは、横田飛行場が戦時に他国の攻撃目標となるおそれがあること及び同飛行場内に核兵器等が持ち込まれている疑いがあることからする不安感や恐怖感を訴えているが、これらの事実は原告らに対する騒音による侵害行為ということはできないから、主張自体失当というべきである。」

三睡眠妨害

同三三六頁一一行目から三五〇頁九行目までを引用する。たゞし、次のとおり、訂正する。

1  同三三七頁二行目の「第三三三号証、」の次に「弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三六九号証の一ないし五、二八ないし五一、五三、五六、五八ないし一〇六」を、同二〜三行目の「原告金澤顯雄本人尋問の結果」、同行目の「原告伊藤運藏本人尋問の結果」、同五行目の「原告土方章子本人尋問の結果」、同六〜七行目の「原告望月子タ郎本人尋問の結果」、同八〜九行目の「原告田中靖雄本人尋問の結果」の各末尾に「(原審)」を、同一〇行目の「並びに」の次に「いずれも原審における」をそれぞれ加える。

2  同三三八頁二行目の「各本人尋問の結果」の次に「、いずれも当審における原告金谷十藪、同福井彌助、同森田マサエ、同中島ウメ、同神崎清、同増田憲一、同御供所弘人、同山田好文、同土田志ん、同吉岡正美、同中島朋男、同福本龍藏各本人尋問の結果」を加える。

3  同三四〇頁八行目の「睡眠」の次に「(ただし、昼寝)」を加える。

4  同三四二頁一二行目の「七〇」を「七五」に改める。

5  同三四九頁一二行目の「現場検証」の次に「(原審)」を加える。

6  同三五〇頁九行目の次に、次のとおり加える。

「もつとも、すでに認定したとおり昭和五六年度以降、夜間における飛行回数は従前に比べ、平均約三五パーセント少なくなつていることを認め得るのである。しかし、そうだからといつて、周辺住民が依然として年間を通じて、連夜、平均一回以上の航空機騒音にさらされていることに変りはない。このことは、毎晩一回は必らず爆音によつて睡眠が妨げられる可能性のあることを意味し、保健上極めて有害なことはいうまでもない。加えて、前記認定のとおり、昭和六〇年度には、夜間の飛行回数は一日平均三・二回と急激な増加を示し、〈証拠〉によれば、昭和六一年一月から六月までの間における騒音発生回数は一日平均二・八回との測定結果を示していること、かつ、騒音の平均ピークレベルが過去一〇年間、年間九四ないし九六ホンを下廻らないことが認められるところ、これらの推移を考慮にいれるならば、本件飛行場周辺の原告ら住民にとつて夜間の安眠を妨害する航空機の騒音は依然として決して楽観の許されない状態が続いているといわざるを得ないのである。ただ、後記認定のとおり、被告の周辺対策の実施により、原告らの大半が居住家屋の防音工事につき決して十分とはいえないまでも徐々に助成を受けつつあることでもあり、夜間の睡眠に対する航空機による騒音妨害については従前に比べればある程度改善の方向に進んでいるといつてよいであろう。」

四その他の生活妨害

同三六三頁一行目の「会話」から三九〇頁末行目までを引用する。たゞし、次のとおり訂正する。

1  同三六三頁五行目の「第三三四号証、」の次に「弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三六九号証の一ないし二五、二八ないし五一、五三、五六、五八ないし一〇六」を加える。

2  同三七二頁七行目の「クライター」を「前記クライター博士」に改める。

3  同三八三頁八行目の「第一回」の前に「原審」を加える。

4  同三八四頁二行目の「第四回」の前に「原審」を、「第五回」の次に「及び当審第一回各」を、三行目の「DC八」の次に「、T三九」を、四行目の「すさまじく」の次に「(約九三ないし一〇〇ホン)」を、九行目の「第一回」の前に「原審」をそれぞれ加える。

5  同三八五頁九行目の「第一回」の前に「原審」を、一〇行目の「ビデオ検証」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加える。

6  同三八八頁一三行目の「第一回」の前に「(原審)」を、一四行目の「ビデオ検証」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加える。

7  同三八九頁四行目の「第一回」の前に「原審」を、八行目の「第四回」の前に「原審」を、九行目の「ビデオ検証」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加える。

8  同三九〇頁六行目の「第一回」の前に、「原審」を加える。

9  同頁末行目の次に、次のとおり加える。

「(七) 家屋賃貸の困難

航空機騒音等が周辺地域に所在する家屋を第三者に賃貸しようとする者にとつて、賃借人を求めるのに困難を生じ、或いは賃料の額に影響を及ぼす可能性があることは肯認できる。

(八) まとめ

以上によれば、原告らの主張するその他の生活妨害のうち、(一)及び(二)は全員に共通する被害として認めることができるが、(三)ないし(七)は原告らのうち特定少数の者に関る被害であつて、原告らすべての者に共通する被害ということはできない。しかし、(五)及び(六)等の被害は、前示認定の事実からすれば、本件飛行場周辺地域全体において騒音被害の強弱に大体相応して発生していることが明らかであるから、後記のとおり、慰藉料額算定に際し、騒音の強弱によつて差等をつけることによつて結局考慮されていることになる訳である。」

五身体的被害

同二八〇頁一〇行目から三二九頁四行目までを引用する。たゞし、次のとおり訂正する。

1  同二八一頁三行目の「第三三四号証」の次に「弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三六九号証の三、五、七、一〇、一二、一五、一六、一八、一九、三〇、三三、三五、四三、四五、四七、五〇、五八、六三、六六、七二、七四、七六、七七、八一、八七、九七、一〇四」を、同行目の「並びに」の次に「原審における」を、同七〜八行目の「各本人尋問の結果」の次に「、当審における原告金谷十藪、同福本龍藏各本人尋問の結果」をそれぞれ加え、同末行目の「同第七二号」を「同第七三号」に改める。

2  同二八四頁二行目の「乙第八〇号証の一、二」を「乙第八〇号証の一」に、二〜三行目の「第八三号証の一、二」を「第八三号証の一」に、三〜四行目の「第三〇五号証の一、二」の次に「、乙第八〇号証の二、第八三号証の二」をそれぞれ加える。

3  同二八七頁一二〜一三行目の「第七九号証の一、二、」の次に「第八四号証の二、」を加える。

4  同二八九頁六行目の「一九六六年」を「一九六九年」に改める。

5  同二九八頁九行目の「安全側」を「安全限界」に改める。

6  同三〇三頁三行目の「第三三四号証、」の次に「成立に争いのない甲第三八九号証、同第三六九号証の一ないし三、五、七、一二、一三、一九ないし二二、二四、二五、二九、三〇、三四、三七、三九、四三、四五、四九、六二、六六、六七ないし七三、八四ないし九一、九四、一〇〇、一〇四、同第四七二号証の三、四、一一、一三、並びに原審における」を、同九行目の「各本人尋問の結果」の次に「、当審における原告金谷十藪、同森田マサエ、同増田憲一、同神崎清、同中島ウメ、同御供所弘人、同中島朋男」をそれぞれ加える。

7  同三〇五頁五行目の「第三回」の前に「原審」を加える。

8  同三二六頁八行目の次に、次のとおり加える。

「従つて、成立に争いのない甲第三八九号証、第四六七号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三七二号証によれば、原告福本龍藏が糖尿病、脳梗塞、高血圧症等により、原告中島朋男が高血圧症等により、原告金澤顯雄が気管支ぜん息等によりそれぞれ各医療機関において受診中であることは窺えるけれども、これらの疾病が本件航空機騒音により発症したものであるとまでは認め難い。

9  同三二六頁一〇〜一一行目の「第三、一」を「第二、三」と訂正する。

10  同三二七頁八行目の「後記」を「前記」と訂正する。

11  同三二九頁四行目の次に、次のとおり加える。

「なお、原告らは、以上のほかに、環境破壊の事実として、(一)子弟の学校教育への影響、(二)集団移転、(三)本件飛行場の存在により固定資産税の税収入が減少し、原告ら居住地の地方公共団体の財政負担が増加していること、(四)同飛行場の存在により地域の交通が渋滞していること、(五)同飛行場への燃料輸送に際して常に火災発生の危険があること、(六)同飛行場の排水施設の瑕疵により過去において周辺地域の浸水事故があつたこと、(七)同飛行場内から漏洩した航空機燃料により周辺地域に井戸水汚染の事故があつたこと等を挙げるが、これらは、いずれも本件航空機騒音等に対する慰藉料の請求原因事実として考慮することのできない事情であり、主張自体失当というべきである。」

六まとめ

以上に判示したところを一言にして要約すると、原告らはそれぞれ、本件侵害行為によつて、生活権について相当程度の被害を被つたものと認めることができるが、身体権については具体的な被害を被つたものと認めることはできないというべきことになる(なお、原告らの一部について身体的被害発生の可能性ないし危険性を認めることができるが、それだけでは慰藉料請求権の発生原因である現実の被害ということができないのみならず、原告らの全部について右の危険性を認めることはできない。)。以下各期毎に被害状況を概観する。

横田飛行場における航空機騒音等は、第一期の朝鮮戦争のころから金属性の激しい騒音を発するジェット機の登場によつて急激に悪化したものと認められるが、その当時における航空機騒音等の状況に関する客観的資料が極めて乏しいため、被害の程度を的確に判断することはできないといわざるを得ない。しかるに、第二期に入り、昭和三九年F一〇五戦闘爆撃機が移駐し、昭和四〇年始めころいわゆる北爆が開始され、騒音発生回数及び騒音レベルはともに最悪の状態に陥つたことは明らかといえる。特に中里地区並びに基地南地区及び堀向地区のうち進入コース直下地域の状況はまことにすさまじいものがあり、堀向地区集団移転の事実にあらわれているように、右地域の生活環境は、人が通常の生活を営むのに堪え難い状態にまで破壊されていたといわざるを得ない。また基地南地区及び堀向地区のうちの進入コース直下地域以外の地域並びに青梅線南側地区及び基地西地区においても、後記のような被告の周辺対策の立ち遅れを考えると、右地域における被害の程度もまた著しいものであつたことは否定できないと考える。

第三期及び第四期においては、騒音発生回数及び騒音レベルともに減少するとともに、被告の周辺対策もようやく充実してきて、これにより第二期に比較して原告らの被害も軽減したといえる。しかし周辺対策が充実してきたとはいえ、音源対策・運航対策において横田飛行場は公共用飛行場に比較し、軍用飛行場としてやむを得ないとはいえ、著しく劣つている点に問題があるといわざるを得ない。とりわけ訓練飛行以外の夜間飛行及び早朝における暖機運転について、米軍の自主規制に委ねられ、なんらの規制措置が講じられず、このため全体としての騒音発生回数は減少しているものの、夜間飛行等の規制されている公共用飛行場に比較して、深夜早朝における騒音発生回数の多いこと(東京国際空港との比較につき原判決別表18)に、原告らの不満が募つていることは理解できるところである。

また被告は、周辺対策に巨額の経費を投じ、その努力は評価すべきであるが、それにもかかわらず救済措置として完全なものとはいえない。すなわち、住宅防音工事についてみると、第四期までは全室防音工事が実現していないだけでなく、後述のように一室当り平均八ないし一〇dB(A)程度の減音効果では、進入コース直下地域及びその付近におけるようにしばしば一〇〇ホンをこえる強大な騒音にさらされている地域においては、防音室内においても日常生活の妨害、心理的・情緒的影響が完全に解消しているとはいい難く、睡眠妨害も軽減されているとはいえ、相当の影響が残るものと考えられる。

第五期においては、すでに認定したとおり、日中の騒音発生回数及び騒音のピークレベルは前期と殆ど異なるところはないが、夜間(午後一〇時以降翌朝午前七時まで)における騒音発生回数は前期に比べると徐々に減少するきざしがないではないこと、日曜日においてもやや減少の傾向にあることが看取され得る。そして、当期における被告の周辺対策、殊に住宅防音工事については、申請者に対しては全員施工済であるところ、前記のとおり右工事による防音効果は不完全であるとはいうものの、夜間の睡眠妨害はある程度緩和されつつあるとみてよいと推認され得る。しかしながら、昭和五〇年から同六〇年までの間における騒音ピークレベルのパワー平均値(年間)が、W値九七と九六との間を上下しているにすぎないこと、昭和五三年から同六〇年までの間にW値が七〇以下になつた日は殆ど皆無に近く、W値七五以下に達した日も年間一ないし四日前後にすぎないことをみれば、本件飛行場周辺の航空機騒音は過去一〇年間全体としてさしたる変化はないといつてよいであろう。」

第四騒音対策

一対策の内容

原判決四〇九頁三行目から四一〇頁一一行目までを引用する。ただし、次のとおり訂正する。

同四一〇頁二行目の「学校」から五行目の「改善をはかること」までを「住宅防音工事の助成、建物等の移転補償及び土地の買入れ等」と改める。

二法令、環境基準等の概観

同四一〇頁一三行目から四二七頁三行目までを引用する。ただし、次のとおり訂正する。

1  同四一一頁四行目の「一ないし九、」の次に「第一二六号証ないし第一二八号証」を加え、同八行目の「敏郎」を「俊郎」に改め、同九行目の「第一回」の前に「原審」をそれぞれ加える。

2  同四二〇頁一一行目の「定めた」の次に「(もつとも、右決定は告示されてはいない。)」を加える。

3  同四二六頁一二行目の「案が示された。」を次のとおり改める。

「案が示され、同年九月一〇日防衛施設庁告示第十四号を以てW値八〇以上の第一種区域の範囲が指定された。その後昭和五六年一二月二一日更に施行規則が改正され、第一種区域の範囲がW値七五以上に拡大されることとなり、これに伴い、昭和五九年三月三日防衛施設庁告示第四号を以てW値七五以上の第一種区域の範囲が指定され、今日に至つている。」

三音源対策と運航対策

同四二七頁五行目から四四六頁九行目までを引用する。ただし、次のとおり訂正する。

1  同四二七頁一三行目の「第一回」の前に「原審」を加える。

2  同四三八頁一二行目の「挙げつつあるといえるが、」から末行目までを次のとおり改める。

「挙げつつあるといえるが(〈証拠〉によれば、その植栽樹種、数量、面積、金額等は原審提出被告別冊第11表及び本判決別冊書面二(被告)別冊第12表の1、2記載のとおり。)、その防音効果がどの程度のものか全く不明である。」

3  同四四六頁九行目の次に、次のとおり加える。

「〈証拠〉によれば、自衛隊等の管理使用する飛行場においては、夜間・早朝、日曜日、祝祭日、地方公共団体等の特定行事日の飛行規則等の運航対策が実施されていること、そのうち、航空自衛隊小松基地(石川県小松市所在)については、防衛施設庁長官と石川県知事並びに名古屋防衛施設局長と小松市長との間にそれぞれ協定書が交され、「早朝、夜間及び昼休み時間には、緊急発進その他特に止むを得ない場合を除き、離着陸及び試運転を中止する。高校入試、お旅まつりその他小松市の主要行事で小松市が要請する場合は、できる限り飛行を制限し、又は中止する。」とか、或いは「基地周辺における騒音の測定は、常時実施するものとし、その管理は国、県及び市町村共同で行う。前項調査の結果に基づいて、少なくとも年一回騒音コンターの見直しを行う。」旨の条項を設けるなど環境庁告示にかかる前記環境基準の速やかなる達成につきより具体的な協議が行われていること、さらに、〈証拠〉によれば、厚木飛行場についても、米国軍用機の飛行活動に関し「二二〇〇時から六〇〇時までの間厚木飛行場におけるすべての活動(飛行およびグループ・ラン・アップ)は運用上の必要に応じ、及び合衆国軍の態勢を保持する上に緊急と認められる場合を除き禁止される。」との日米合同委員会の合意がなされたこと等が認められる。

これに対し、同委員会の横田基地に関する合意内容をみると、米軍機の夜間殊に深夜並びにわが国の祝祭日等における運航規制には全然言及されておらず不問に付されているのである。他方において、〈証拠〉によれば、米国の祝祭日(本判決付表XIの「祝祭日」欄記載のとおり。)における昭和五五年以降昭和六一年前半に至るまでの間における本件飛行場の航空機飛行回数は右付表XI記載のとおりであり、このうち少数の場合を除き、大部分の祝祭日における飛行回数は、年間の一日平均飛行回数を遙かに下回ることは明らかであつて、本件飛行場が米軍の軍事目的のもとに不定期に運用されているとはいつても、その基本においては一般官公庁における公務遂行の態様と何ら異ならないことが窺われるのであり、従つて、運航対策如何によつては本件飛行場における深夜の飛行回数を現状よりもさらに減少させることも困難ではないことを示しているものといえよう。それにも拘わらず、被告は米軍との間に前記合同委員会における航空機騒音軽減のための規制措置に関する合意に達したこと以上に運航対策につき根本的な改善に向けて努力を払つた形跡は殆ど認めることができない。

又、〈証拠〉、ブルーインパルスの写真であることに争いがなく、撮影年月日、撮影者、撮影場所の記載については弁論の全趣旨により成立の認められる〈証拠〉によると、近時(昭和六一年八月三〇日、三一日)横田基地付近住民の再三の中止要請にもかかわらず、日米親善フェスティバルの名目のもとに日米航空自衛隊の曲技飛行が実演されたが、右は明らかに前記日米合同委員会の承認した合意事項(曲技飛行の禁止)に違反するものである。

以上によれば、被告は米軍に対して右合意による規制措置の尊重を求めることに熱心であると認めることはできないのみならず、時にはその違反に協力することもあるものといわざるを得ない。

なお、〈証拠〉(昭和六〇年航空機騒音調査結果報告書・昭和六一年一一月刊行)によれば、東京都は、最近における横田基地についての調査結果に基づいて六項目の騒音対策を挙げ、その一として、日米合同委員会合意事項の改定の必要を強調し、「横田基地周辺に係る航空機の騒音については、昭和三九年四月一七日、日米合同委員会において『横田飛行場周辺に係る航空機の騒音軽減措置』で合意されているが、合意後既に二〇年を経過し基地周辺の状況、使用されている航空機等が合意当時と大きく変化しており、一部内容が現状と合わないものがあるため、新しい状況や情報に基づいた騒音軽減措置を取り決めることが必要と考えられる。」と述べていることが認められるが、以上に判示したところに照らし、誠にもつともな意見というべきである。

もつとも、すでに認定したとおり、一日の平均騒音発生回数の経年推移をみてみると(本判決付表Ⅷ参照)、右回数は、昭和四五年から同四九年迄の間に急激に減少した後、昭和五〇年以降は若干の変動はあるものの、概ね同水準を維持し今日に至つている。又、本判決付表Ⅳ、Ⅴのとおり、横田飛行場における夜間、深夜、早朝の騒音発生回数については、過去一三年間(昭和四八年以降同六〇年迄)の間に徐々に減少してきていることが窺われ、特に、深夜、早朝(午後一〇時から翌朝七時までの間)についてみると、昭和五〇年において年間一四九九回

氏名

検証場所

騒音線引地域

及びW値

屋外と

非防音屋内との

レベル差

防音室と

非防音室との

レベル差

原告 大野悦子

昭島市拝島町

三五五四―四

ⅠW85

8.5

13.1

同 金井和夫

立川市砂川町

三六四四―三

ⅡW90

22.5

同 谷十藪

昭島市上川原

町一八九―一一

ⅠW85

22.6

9.1

同 田中靖雄

昭島市田中町

一―三二―九

ⅠW80

27.8

8.0

同 大野秀雄

昭島市美堀町

四―六―八

ⅡW90

20.7

8.6

同 森田マサエ

立川市西砂町

三―三五―九

ⅡW90

17.4

8.8

訴外 古河宏一郎

昭島市上川原

町一五

ⅠW85

24.3

4.0

同 石川頼蔵

昭島市大神町

二―六―九

ⅠW85

20.2

8.3

同 臼井正雄

昭島市昭和町

五―三―四

ⅠW80

同 藤戸他見男

昭島市緑町

一―一五―九

ⅠW85

17.2

6.8

レベル差平均値

20.1

8.0

(1) レベル差の単位はdB(A)である。

(2) レベル差の各数値は原告・被告双方の測定値の平均値である。

(3) 空白欄は非防音室内における測定がなかったことによるものである。なお、訴外臼井正雄宅における屋外と屋内防音室との騒音レベル差は三四・二dB(A)であった。

(一日平均四・一回)だつたのが、昭和六〇年においては年間四四二回(一日平均一・二回)にまで減少している。しかしながら、他方、昭和六〇年以後再び増加傾向にあること(一日平均三・二回)を示す資料もあり(本判決付表Ⅲのうち、「昭島市昭和六〇年度」の項参照)、将来の予測を困難にさせているばかりでなく、横田飛行場においては、公共用飛行場と比較した場合はもとより、自衛隊等が管理する飛行場の中でも、いわゆる厚木飛行場(神奈川県所在)とともに、周辺地域の中に環境庁の定めた達成すべき環境基準W値七五を遥かに超えるW値九〇台を示している地域のあることが認められるのであり(環境庁大気保全局の昭和五九年四月調査結果―成立に争いのない甲第三六二号証の一)、結局横田飛行場の音源対策、運航対策全体としては、同飛行場が米軍管理下にある軍事基地であることを考慮にいれても、ここ一〇年間においてなされた改善努力は、甚だ不十分なものであるといわなければならない。

そこで、進んで以下被告が横田飛行場周辺において被害救済のために実施している周辺対策の内容について検討する。」

四周辺対策

同四四七頁七行目から四四九頁一三行目まで、四五七頁一三行目から四六五頁七行目まで、四六六頁末行目から四七二頁一〇行目までをそれぞれ引用する。ただし、次のとおり訂正する。

1  同四四九頁六行目の「同第一〇三号証の一ないし一〇、」の次に「証人佐藤吉司の証言により成立の認められる乙第一三四号証ないし第一三六号証の各一、第一三八号証の一、第一三九号証の一、第一四一号証の二、第一四四号証の一、第一四六号証の一、第一六一号証の一、第一六二号証、第一六四号証、第一六五号証の一、第一六六号証、第一六九号証の一、第一七一号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一八二号証」を加え、同七行目の「敏郎」を「俊郎」に改め、同行目の「西田寿快」の次に「、同佐藤吉司」を、同一一行目の「第一回」の前に「原審」をそれぞれ加える。

2  同四五七頁一三行目の「3」を「1」に改める。

3  同四五九頁九行目の「第四回」の前に「原審」を、一二〜一三行目の「認められた。」の次に、次のとおりそれぞれ加える。

「(もつとも、後記のとおり、通常の家屋においては、防音装置がなくても、窓を閉めることにより、約一〇〜二〇dB(A)の減音効果があるのであるから、厳密にいえば、防音装置施工自体による防音効果は最高一〇dB(A)程度というべきである。)」

4  同四六〇頁末行目の「記載のとおりである」の次に「(昭和五五年度以降同六〇年度までの間の実績は、本判決別冊書面二(被告)別冊第13表の1、2記載のとおり一万七九二四世帯、補助金総額三二一億一一六四万円余であり、そのうち、原告らに関しては本判決別表第一・1・2(右別冊第8表)記載のとおりである。)」を加える。

5  同四六一頁一一行目の「昭和五三年」を「昭和五九年」に、「三〇」を「六〇」にそれぞれ改め、一二行目の「とどまつている」の次に「(もつともW値八〇以上の地域では一〇〇パーセント施工済である。)」を加える。

6  同四六二頁四行目の次に、次のとおり加える。

「すなわち、航空機による騒音は、通常の民家内においては防音装置が施されていなくても、家屋の構造自体が障壁となることにより若干減弱されることが明らかなのであるから、防音装置が施工された後の騒音に対する減弱効果は、実質的には右施工前の居住家屋内の騒音測定値との差の数値というべきであろう。

そこで検討するに、原審(第四、五回)及び当審(第三ないし第五回)の検証の結果によれば、航空機騒音による屋外と非防音屋内とのレベル差及び防音室と非防音室とのレベル差は次表〈編注・前頁図表〉のとおり認められる。

すなわち、右の表〈編注・前頁図表〉によれば、騒音は、防音装置がなくても、屋内の窓等を閉鎖するだけで、平均約二〇・一dB(A)減弱することが認められるのであり、防音装置を実施しても、これにより平均約八・〇dB(A)減弱するにすぎないことが窺われる。もつとも、右数値はあくまでも平均値であつて、家屋の構造、建造年月、航空機の機種、飛行方向、天候、測定方法等の諸条件により各家屋毎に測定値が異なることは不可避であり、かつ、居住者において騒音を感ずる度合にある程度強弱の存することはやむを得ないというべきである。

又、防音装置による防音効果が、平均値八・〇dB(A)減弱するにとどまるといつても、夜間における航空機騒音による睡眠妨害はかなり緩和され得るものといえるであろう(もつとも、そのためには居住者全員の寝室に防音設備が施工されていることが前提である。)。

しかし、日中における通常人の生活は、普通、防音室内に常時在室しているわけでもなく、他の非防音室ないし外部への出入等が頻繁に繰返されるのであるから、防音室があるからといつても、これによる生活上の利益は部分的にとどまるといわざるを得ないのである。従つて、以上を総合すれば、被告の主張する防音装置の実施によつても、原告らの被る航空機騒音による損害を全面的に解消させるに足りるものとは到底解することができない。」

7  同四六二頁五行目の「4」を「2」に改める。

8  同四六六頁末行目の「6」を「3」に改める。

9  同四六九頁六行目の「記載のとおりである」の次に「(昭和五五年度以降同六〇年度までの間の実績は、本判決別冊書面二(被告)別冊第19表―1、2記載のとおり、二四万七四七四件、補助金総額一三億二〇五六万円余である。――乙第一四一号証の二、第一六六号証)」を加える。

10  同四七〇頁八行目の「7」を「4」に改める。

11  同四七二頁一〇行目の「記載のとおりである」の次に「(昭和五三年一〇月一日以降同六〇年度末までの間の実績――ただし、昭和五八年度以降は希望者なし――は、設置台数三六五、補助金総額一八二万円余である。――乙第一四〇号証の一、二)」を加える。

なお、被告は、周辺対策として、学校・病院・民生安定施設等の防音工事の助成、障害防止工事の助成、民生安定施設の一般助成、移転跡地の整備、周辺市町への各種交付金、農耕阻害補償等の措置を挙げているが、これらは原告ら各個人の生活権の被害に対する対策ということができないことは明らかである。

第五違法性と受忍限度

一違法性と通常の受忍限度

1  不法行為における違法性の概念は必ずしも明確ではないが、ここでは侵害行為の程度が被侵害利益に対して法律上の救済を与えるのを相当とする程度の被害を被らせるほどのものであるとき、右侵害行為は違法性を帯びることになるという意味でこれを使用することとする。そうすると、不法行為における違法性を判断するには、被侵害利益(その性質と内容)と侵害行為(その態様と程度)の両面から検討することが必要となる。しかし、原則として、それで足りるというべきである。被侵害利益が、例えば、生命権又は身体権であるときは、生命侵害や身体傷害をもたらすような侵害行為は直ちに違法性を帯びるものと解すべきである。しかし、本件のように、被侵害利益が生活権であり、侵害行為が飛行機騒音である場合は、騒音の程度によつて違法性の有無を決すべきであるといわなければならない。なんとなれば、人の生活において無音の状態というものは無く、人が社会生活を営む以上、自分も他人も各種の音を発生させない訳には行かないからである。

2  そこで、検討するに、人は、原則として、一定限度までの音に対しては、それが何に基づくものであれ、不快感を持たないことは経験則上明らかである。このように人に何らの被害をも与えるに至らない程度の騒音は、本来違法性を有しないものというべきである。

次に、騒音の程度が高まると、それに応じて、人は不快感その他の被害を受けるようになることは前示のとおりである。しかし、社会生活は人の本質的属性であるから、これを成立させるためには、騒音であれ振動であれ他人の行為に起因する不快感等の被害を一定限度までは我慢し忍耐しなければならない。そこで、社会生活上やむを得ない最少限度の騒音は、相当程度の不快感等を与える程度のものであつても、同じくもともと違法性を欠くものというべきである。この限度は被害についての「通常の受忍限度」と呼ぶべきものである(右の受忍限度は時と場所によつて異なるものであるが、これを具体的に示すことはかなり困難な問題であり、かつ又、本件の直接の争点ではないので、ここでは数字的に基準値を示すことをしない。)。

二特別の受忍限度と特別の事情

1  特別の受忍限度

侵害行為=騒音が右に述べた社会生活上最少限の受忍限度を超える被害を与える場合は、その侵害行為は違法性を帯びることになる。しかし、そのような場合でも、特別の事情が存するときは、被害者は更に一定限度まではこれを甘受しなければならない。つまり、このような事情は受忍限度を高める効果を持つ訳である。この高い受忍限度は「特別の受忍限度」と呼ぶべきものである。本件で考慮すべき特別の事情は公共性と地域特性であり、以下順次検討する(これらの事情は受忍限度を高めることにより通常の受忍限度から特別の受忍限度までの間の侵害行為の違法性を阻却する効果を持つものであるから、いわば部分的違法性阻却事由とでも呼ぶべき性格を有していることになる。これに対し、社会生活はすべての人に共通して存在するものであるから、通常の受忍限度内の行為はそもそも違法性が無いのであり、社会生活自体が一個の部分的違法性阻却事由になる訳ではないと解すべきである。)。

2  公共性

行為の主体が公共性を有し、侵害行為が公益のためになされた場合は、私権はそれによる被害をある程度我慢することが必要であることは明らかである。そして、公共性が高度になればそれに応じて受忍限度も高くなるというべきである。横田飛行場は、米軍の管理下にあるが、我が国の国防上の全組織の一部を成す軍事施設であることは当事者間に争いがなく、従つて、国防上の公共性を有している。そこで、同飛行場の公共性の程度について検討する。

行政は、多くの部門に分かれているが、各部門の公共性の程度は、原則として、等しいものというべきである。国防は行政の一部門であるから、戦時の場合は別として、平時における国防の荷う役割は、他の行政各部門である外交、経済、運輸、教育、法務、治安等の荷う役割と特に逕庭はないのであり、国防のみが独り他の諸部門よりも優越的な公共性を有し、重視されるべきものと解することは憲法全体の精神に照らし許されないところである。それであるから、国防上の諸機関の公共性も他の諸部門の諸機関のそれと同程度といわなければならない。殊に、同種の機関の場合は尚更である。従つて、軍事基地としての横田飛行場の公共性の程度は、例えば、航空機による迅速な公共輸送のための基地である成田空港等の民間公共用飛行場のそれと等しいものというべきである。

被告は、本件飛行場は高度の政治的判断に基づく新安保条約によつて米軍に提供された施設であり、その規模や地理的条件等において代替性のないものであるとして、同飛行場の高度の公共性を強調し、私益対私益の対立の場合と異なつて、公益対私益の対立の場合は私益の侵害の結果が発生しても原則として適法であるとして、公共性は全部的違法性阻却事由である旨主張している。しかし、騒音は単純な物理現象であつて、騒音自体に公共性のあるものとないものとの区別がある筈はなく、侵害行為としては航空機騒音も工場騒音等々も同一視されるべきものであり、社会生活上最少限の通常の受忍限度を超えればいづれも違法なのである。右に述べたように、公共性は受忍限度を若干高める事由にはなるが、公共性の程度が高ければどれだけ受忍限度を超えても原則的に違法にならないなどということはないのである。

又、横田飛行場が我が国の国防上他の軍事施設に比べて公共性の程度が高いか低いかについて原被告間に争いがあるが、右飛行場を他の施設に対して特別に扱うべきことを認めるに足りる証拠はない。

3  地域特性

次に考慮すべき特別の事由は、各地域の特性である。人の居住地域は、それぞれの特性を有し、例えば、都市計画法はこれを住居専用地域、商業地域、工業地域等々に分類している。又、道路に面する地域とそれ以外の地域の区別も重要である。前記の「騒音に係る環境基準」も「航空機騒音に係る環境基準」も住居の用に供される地域の基準値よりも商業工業等の用に供される地域のそれを高く設定している。商工業地域においては、住居地域に比べると、騒音が出易いことは明らかであり、そこに住む人々はそのことを予期している訳であるから、ある程度受忍限度が高くなることはやむを得ないものというべきである。

三本件における受忍限度の基準値

1 被害の程度を客観的な形で表現することは困難であるし、一定の騒音は、原則として、これに相応する一定の被害を与えるものであるから、被害の受忍限度を定めるには、その質と量を数字で表現することのできる騒音によることが合目的的である。そこで、まづ、航空機騒音の影響度の算定方式としてどのようなものが最も適当かが検討されなければならない。これまでに種々の方式が考案されているが、現状では、騒音レベル、発生頻度、昼夜間における影響度の差異など複雑な要素を総合考慮して一日の総騒音量を数値で示すWECPNL方式が最も信頼できるものであるといえよう。同方式はICAO(国際民間航空機構)によつて多数の航空機による騒音の長期連続暴露の尺度として提案されているものであり、我が国の中央公害対策審議会もこれを使用し、公害対策基本法に基づく前記航空機騒音の環境基準や生活環境整備法に基づく区域指定も右方式によつて定められているが、これらは右方式の高い信頼性を示すものといえよう(なお、W方式にも細分すると数種の方法があり、そのいずれを採るかによつてW値に若干の差異を生ずることが認められるが、ここで採用する方法は、生活環境整備法四条、同施行令八条、同施行規則一条所定の算定方法である。)。

原告らは、W方式は民間定期航空を対象とするには適当だが、一定時間帯にのみ集中し、編隊飛行をするケースの多い軍用空港の場合には必ずしも適当ではないと主張し、〈証拠〉記載にかかるPAANI方式を推すかの如くである。確かに右方式は特色ある方式の一つではあるが、少なくとも本件においてW方式を排してこれを採用しなければならないほど優れているものともいえない。のみならず、右〈証拠〉によつても、W方式はW値七五以上の場合においては住民のうるささに対する感情と合致する適切な方式であることが認められる。

又、被告は、W値はうるささ指数であり、それ以外の騒音被害との相関関係が明らかではないと主張する。しかし、前示のように、本件において認められる被害は、身体傷害ではなく、うるささに基づく不快感、睡眠妨害及びその他の生活妨害なのであるから、W方式はまことに相当な方式というべきである。

2 そこで、W方式に基づいて、本件における受忍限度の基準値を検討する。

(一)  まづ、「航空機騒音に係る環境基準」が類型Ⅰの地域(専ら住居の用に供される地域)においてはW値七〇以下、類型Ⅱの地域(Ⅰ以外の地域であつて通常の生活を保全する必要がある地域)においてはW値七五以下と定めていることが十分に考慮されなければならない。確かに、右基準は「人の健康を保護し、及び環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」(公害対策基本法九条一項)であつて、国が航空機騒音に対する総合的施策を進める上での行政上の達成目標であるというべきであるから、右のW値を超える騒音が直ちに違法性を保有すると解することはできない。つまり、右基準値をもつてそのまま受忍限度の基準値とすることは適当ではないというべきである。しかし、右の基準値は国自らが慎重な考慮に基づいて騒音対策を必要とする基準として定めた値であるから、受忍限度の決定に対しても重要な意味をもつものというべきである。以上の考察から明らかなように、受忍限度の基準値は右環境基準の基準値を上廻ることはやむを得ないとしても、これを大幅に超えることは許されないものと考える。

又、国は生活環境整備法に基づいて防音工事助成措置の必要な第一種区域を本件飛行場周辺に指定しているが、その基準となるW値は当初八五であつたが、まもなく八〇に改正され、次いで七五に改正されている。この指定は、「航空機の離陸、着陸時のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいと認め」(同法四条)られた結果として決定されたものであること及び右W値は前記基準のW値におけるような達成目標ではなく、防音工事等の諸種の騒音対策の現実の実施のために定められたものであることからすれば、このW値は受忍限度の決定に当たつて十分に考慮されなければならない。

なお、航空機騒音障害防止法も、生活環境整備法と同様に、公共用飛行場の周辺地域についてW値による区域指定を行つて騒音対策を行うこととしているが、東京国際空港周辺地域については住宅防音工事の助成措置をとるべき第一種区域として基準となるW値は七五以上とされている(公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律施行令六条、同法律施行規則一条二項)。

(二)  次に、公共性による受忍限度の加重の問題について検討する。前記基準は民間公共用飛行場の周辺地域について定められたものであるが、更に、右基準は、自衛隊等が使用する飛行場の周辺地域についても同基準が達成され、又は維持されるように努めるべきものであることを定め、自衛隊等用飛行場を民間公共用飛行場と同様に取扱つている。そして、右基準にいう「自衛隊等」は新安保条約に基づく在日米軍を含むとされている(乙第四四号証の二参照)のであるから、結局、右基準は、民間公共用飛行場、自衛隊用飛行場及び米軍用飛行場の三者の各周辺地域に等しく適用されるべきものである。そして、実際に、東京都知事が公害対策基本法九条の委任に基づき、横田飛行場の周辺地域について右基準の定める地域類型のあてはめを行つたことは前示のとおりである。つまり、右基準は、右の三種の飛行場の公共性をすべて等しいとしている訳であるが、このことは、前示のように、運輸と国防の公共性は等しく、それぞれの施設である民間公共用飛行場と軍事用飛行場の公共性も等しいということを国自身が認めていることの一つの現れというべきである。従つて、右基準のW値を参考にして本件地域の受忍限度を決定する場合、本件飛行場の国防上の公共性は既に右W値の中に織り込み済である訳であるから、更に重ねて右公共性を受忍限度の加重要素として考慮することは相当ではないということになる。次に、前記区域指定の基準となるW値は、本件飛行場の周辺地域を直接の対象として定められたものであるから、その公共性は既に十分に考慮済みであるというべきである。

(三)  次いで、地域特性による受忍限度の加重の問題について検討する。前記基準は、類型Ⅰと類型Ⅱの両地域の間にW値五の差を設けているが、前記区域指定は右のような区分をしていない。しかし、地域特性によつて若干の差があるべきことは前示のとおりであり、「騒音に係る環境基準」における住居地域と商工業地域の間のホン値の差異等に鑑みると、前記基準における両類型地域のW値の差は適当であると考えられ、受忍限度のW値の場合も右と同程度の差異は存するのが適当であるというべきである。

(四)  更に進んでW値とそれが人体に及ぼす影響の程度について検討する。特に、最も影響を受け易い聴力についてみると、前示のとおり、〈証拠〉並びに〈証拠〉(米国連邦環境保護庁一九七四年三月付の「公衆衛生と福祉を適切な安全限界によつて保護するため必要な環境騒音レベルに関する資料」の翻訳)の各記載によれば、何人も長期間にわたりW値八五以上の騒音環境にさらされた場合、永久的な聴力損失が起るおそれがあるとの実験結果の存在することが示されている。そこで、騒音の受忍限度をW値八五以上とすることは、そのような騒音下に居住する住民がすべて聴力損失を被るとまではいえないにしても、許されるべきことではないというべきである。そして、他方において、前示のように、騒音が大きくなればなるほど生活権の侵害は大きくなり、不快感、睡眠妨害等の被害の度合は高くなつていくが、W値八〇までの騒音によつては身体の被害にまでは至らないことが認められる。

(五)  以上に判示したところと前記第三被害の項において、騒音の程度と生活妨害の程度との相関関係について判示したところとを総合して判断すると、原告らのうち、類型Ⅰの地域内に居住地を有する者についてはW値七五以上の騒音による被害は受忍限度を超えており、類型Ⅱの地域内に居住地を有する者についてはW値八〇以上の騒音による被害は受忍限度を超えていると認めるのを相当とする。従つて、右のそれぞれのW値以上の騒音は違法性を帯びることになり、民特法一条及び二条適用の要件を満たすことになるというべきである。

四騒音対策

被告は、違法性の判断に当たつては、以上に検討した事項の外に、被害の防止又は軽減のための各種の行政対策の内容と効果をも考慮に入れて総合的に考察して決すべきであり、これらの対策は違法性を排斥する重要な事情であると主張している。既に見たように、騒音対策には各種のものがあり、いずれも被害の防止又は軽減にとつて重要なものであるが、その性格は、以下に示すように、被告主張の如きものではなく、それ自体においてその効果を判定すべきものであり、かつ、それをもつて足りるとすべきである(なお、騒音対策は、本来騒音を出している加害者である米軍が行うべきものであるが、第三者である被告が行つた場合でも、それが客観的に被害の防止又は軽減に役立つているならば、その限りにおいて考慮されるべきものである。しかし、効果が挙がらない場合は、対策が講じられたこと自体をもつて違法性の判断要素のうちに加えたり、又は慰藉料の算定に当たつて考慮すべきものとするのは適当ではない。)。

以下、各種の対策について検討する。

1  音源対策及び運航対策

これらの対策の目的は騒音自体のW値を下げることにある。従つて、もし、これらの対策が成功してその結果W値が受忍限度内にまで下がるならば違法性は無くなるか又は阻却されることになるが、それは理論上右の対策によつてではなく、受忍限度が存在することとによつてそうなる訳であり、反対に、もし、成功しないでW値が依然として受忍限度を超えているならば、騒音の違法性は消えないのであるから、いずれにしてもこれらの対策そのものは違法性阻却事由の性格を有するものではないのである。つまり、これらは極めて重要な事項ではあるが、それぞれの対策自体についてどこまで成功したかを判断することが大切であつて、違法性の判断に当たつて総合的に考慮されるべき事柄の一つではないといわなければならないのである。そして、本件において、これらの対策は十分な効果を挙げることができず、その結果として依然として違法性のある侵害行為が存在することは前示のとおりである。

2  住宅防音工事

この対策の目的は、侵害行為はそのままにしておいて、専らそれによる被害の防止又は軽減を目的とするものである。従つて、これが成功するならば、侵害行為は存在するのに、被害は存在しないか軽減されて、その結果侵害行為の違法性を問題とする必要がなくなることになり、もし成功しないならば、被害は依然として存在し、侵害行為の違法性は消滅することはないのであるから、この対策の性格は音源対策等と全く同じであるというべきである。

ところで、この対策は、もともと人の生活のうち屋内におけるものについての被害を防止するためのものであるから、成功するとしても部分的なものにとどまらざるを得ない。しかし、部分的に成功するならば、その限度において被害の軽減に役立つているのであり、侵害行為はその分だけは被害を与えていないことになる訳である。そこで、本件において右対策の効果は前示のとおりであるから、後記のとおり、その程度に応じて慰藉料の算定に当たつて考慮することとする。

3  その他の対策

これらのうち、ラジオ・テレビ受信料減免の助成は被害の一部填補の意味を有し、騒音用電話機設置事業の助成は被害の軽減の意味を有するのであり、いづれも違法性阻却事由というべきものではない。これらの被害は本件騒音の被害としては中心的なものでなく、又、前示のように右両対策の効果も十分とはいえないので、慰籍料の算定に当たつては考慮の中に入れないこととする。

建物等の移転補償及び土地の買入れは、その結果騒音が到達しなくなれば、不法行為の問題は解消し、移転しても騒音の程度が低くなつただけで依然として騒音による被害が残るのであれば、その限度で不法行為は成立している訳であるから、音源対策等について述べたところがそのまま当てはまることになる。

その外に、被告の主張する学校、病院等の防音工事、公共用施設に対する障害防止工事、民生安定施設の一般助成、各種交付金の助成等の対策は、いずれも原告ら個人の受けた被害の防止又は軽減に関係のあることではないから本件における違法性の有無の判断に当たつて考慮すべき事柄ではない。確かに、これらの周辺対策は、原告らの居住地域の環境の悪化防止に若干役に立つているものということができるが、本訴の訴訟物として環境権を認めることができないことは前示のとおりであり、又、人格権としての生活権に対する侵害行為の違法性の有無の判断に当たつて環境の悪化又はその防止を考慮すべきでないことも前示のとおりであるからである。

第六地域性及び危険への接近

一地域性

被告は、横田飛行場周辺地域は米軍のジェット戦闘機等の飛行活動による騒音等の影響を受ける地域であるという社会的承認がすでに形成されていたとし、これを違法性阻却事由として、原告らは、個人的認識の如何を問わず、もはや被告に対し米軍機の発する騒音が違法であると主張することは許されないと主張する。しかしながら、いかなる事実関係を指して被告のいう社会的承認があつたというのか必ずしも明らかではない。もし、これが一般的社会的な事実の認識を意味するのであれば、このような認識があつたからといつて違法性を阻却すると解するのは相当ではない。又、被害の容認を意味するのであれば、それは所謂被害者の承諾に当たるものということができるから、違法性を阻却する事由といえるが、本件においてはそのような容認の事実を認めるに足りる証拠はない。確かに、被告の主張するように、米軍が昭和二〇年九月本件飛行場の使用を開始して以来、年々徐々に騒音度が高くなり、殊に昭和二五年の朝鮮戦争以後は逐年騒音度は高まり周辺住民の生活を脅やかすようになつて、それが多年にわたり継続していることは前示のとおりであり、又周辺地域の住民が右の騒音に対してその都度米軍又は国に対し一々厳重な抗議の申入れや或いは騒音発生の差止ないし損害賠償請求訴訟の提起などをしなかつたことも認めることができる。しかし、それだからといつてこれらの事実をとらえて、右騒音による被害を容認したものと見なすことはできない。

結局、被告主張の地域性の理論は独自の理論であつて採用することはできないか或いは証拠上その要件を認め難いものであるというべきである。

二危険への接近

一般に、ある者がある場所に危険が存在することを認識しながら又は過失により認識しないで、あえてその場所に入つて危険に接近し、そのため被害を被つたときは、具体的な事情の如何により、過失相殺に準じて、損害賠償の額を定めるについてこれを減額事由として考慮すべきである。この場合、その者が特に公害問題等を利用して損害賠償を得ようとする意図をもつて危険に接近したことは必要ではない。又、危険即ち侵害行為の認識で足り、それによる被害の容認までは必要がない。もし、被害を容認していたとすれば、所謂被害者の承諾の理論により、全部の免責を認めるべきことになろう。しかし、認識で足りるとする以上、全部の免責を認めるのは適当ではなく、一部の免責にとどめるべきである。又、過失により認識しなかつた場合は条理上認識していた場合と同様に取扱うのが相当であると解する。

そこで、本件に即していえば、一部の原告らが、(一)航空機騒音の存在についての認識を有しながら又は過失により認識しないで転居してきたこと、(二)その被害が騒音による精神的苦痛ないし生活妨害のようなもので、直接生命、身体にかかわるものでないこと、及び(三)騒音の発生源が公共的施設であることが要件となると考えるべきである(前出昭五六最大判参照)。右の(二)及び(三)の要件については既に判示したとおりであるので、ここでは(一)の要件について検討する(なお、転居後に実際に被つた被害の程度が転居の際その存在を認識した騒音から推測される被害の程度を超えるものであつたとか、転居後に騒音の程度が格段に増大したとかいうような特段の事情が認められる場合は例外であるが、本件においてその旨の主張はなく、又右のいずれの事情も認めるに足りる証拠はない。)。後記第九消滅時効の項において認定するとおり、昭和三五、六年頃から本件飛行場周辺の市町当局及び住民多数は、本件航空機騒音は受忍限度を超えているとして、その規制を求め、かつ静穏な日常生活が確保できるようにと国や米軍に対し陳情、要望を重ね、善処方を申入れるなどいわば一種の社会問題化していたこと、殊に、前示のように、米軍のベトナム戦争介入後、いわゆる北爆が昭和四〇年二月ころから開始され、それによつて米軍機による航空機騒音は質量ともに飛躍的に増大する傾向であつたことが認められるのであり、これらの点からすれば、昭和四〇年当時本件飛行場周辺の相当広範囲の地域は航空機騒音にほぼ恒常的にさらされている地域として一般に熟知されていたものということができる。従つて、遅くても、昭和四一年一月一日以後同飛行場周辺地域のうち受忍限度を超える被害を受ける地域に転入した者は、特別の事情の認められない限り騒音公害発生の事実を認識していたか又は認識していなかつたとしてもその点について過失があると認めるのが相当である。

第七将来の損害の賠償請求

「民訴法二二六条はあらかじめ請求する必要があることを条件として将来の給付の訴えを許容しているが、同条は、およそ将来に生ずる可能性のある給付請求権のすべてについて前記の要件のもとに将来の給付の訴えを認めたものではなく、(中略)たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であつても、それが現在と同様に不法行為を構成するか否か及び賠償すべき損害の範囲いかん等が流動性をもつ今後の複雑な事実関係の展開とそれらに対する法的評価に左右されるなど、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点においてはじめてこれを認定することができるとともに、その場合における権利の成立要件の具備については当然に債権者においてこれを立証すべく、事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものについては、(中略)本来例外的にのみ認められる将来の給付の訴えにおける請求権としての適格を有するものとすることはできないと解するのが相当である。」(前出昭五六最大判)。当裁判所も右と同様に解する。

本件についてこれをみるのに、将来の侵害行為が違法性を帯びるか否か及びこれによつて原告らの受けるべき損害の有無、程度は、今後の騒音の程度、被害を防止・軽減するため今後被告により実施される諸方策の内容、実施状況、原告らのそれぞれにつき生ずべき種々の生活事情の変動等の複雑多様な因子によつて左右されるべき性質のものである。本件飛行場の軍用飛行場としての性格上、同飛行場における航空機騒音等の状況には恒常性がなく、将来を予測することが極めて困難であり(すでに見たとおり、近い将来、騒音のW値が大幅に減弱することは期待できないが相当程度変動しないとまでは断定できないところである。)、また前記のとおり、被告の周辺対策は漸次充実してきており、すでに住宅防音工事の対象地域もW値七五以上の地域に拡大され、全室防音工事の施工も実施されつつあり、更に「航空機騒音に係る環境基準」の設定によつて、被告が右基準の達成を義務づけられていることなどを考慮すると、将来における横田飛行場周辺地域の被害状況及び被害額等を予測するには、不確定な要素が多く、現在において的確な判断をすることは不可能である。従つて、原告らの損害賠償請求のうち当審口頭弁論終結後である昭和六二年一月二九日以降に生ずべき損害(この損害の賠償の請求に関する弁護士費用を含む。)の賠償を求める部分は、権利保護の要件を欠くものというべきであつて、本訴請求中右請求にかかる訴えを却下すべきである。

なお、原判決は主文第3項において将来の損害賠償請求の部分を棄却しているが、原判示によれば原判決も右と同旨であることが明らかであるから、明白な誤記であると認める。ただし、本判決においては主文第一項1のとおり原判決を変更するので、特に原判決主文の右の部分を更正することをしない。又、原審口頭弁論終結後から当審口頭弁論終結までに生じた損害については、過去の損害の賠償請求となつたので、この部分についてはその要件に対する実質的審理判断をすることとする。

第八当審における電気料金相当損害金の金員請求

別表第三記載の原告福本龍藏外七五名の右請求の請求原因は、本件航空機騒音による違法な侵害により原告らは日常生活上多大の被害を受けているところ、原告らにおいて右騒音の被害を防止又は軽減するためには原告ら自ら各住宅の居室に防音設備、空調設備等を施工することは必要不可欠であるから、これによつて生ずる右施工費用はもとより右空調設備使用に伴う電気料金の過去、現在及び将来にわたる支出負担は、本件航空機騒音によつて原告らに生ずる直接的損害であり、かつ、それは米軍(原告らは「被告国」というが誤記と認める。)がこれを当然に予想しえた相当因果関係の範囲内の損害であつて、この損害は、例えば、交通事故損害賠償の場合において長期の介護を要する被害者のための介護者の費用や車椅子のための居宅改造費用と同じ性格のものであり、従つて、既に請求している精神的損害とは別個の物的損害であるというのである。

よつて検討するに、本件において認められる被害は、前示のとおり、生活権に対する侵害にとどまつて、身体権に対する侵害にまでは及んでいないのであり、不快感、睡眠妨害、会話妨害等の非身体的被害は、その性質上被害発生時限りのものであつて、その時を過ぎれば消失し、後にはそのような被害を慰藉するための損害賠償の問題は残るが、身体的被害の場合のように後遺障害やそれに対する介護というような問題は残らないのである。そして、確かに、航空機騒音に対して周辺住民が居住建物の居室に防音施設を施工することは日常生活上被害を防止する有効な手段と考えられることではあるが、本件不法行為は、後示のように、一個の継続的なものではなく、日々発生するものであると解するのであるから、防音工事によつて防止又は軽減しようとする被害は、過去において起つてしまつた侵害行為による被害(これは既に述べたように残つていない)ではなくして、将来起るかも知れない侵害行為による被害なのである。つまり、後遺障害に対する介護は、過去の侵害行為によつて過去において発生し、かつ現在においても存在する被害の救済を目的とするものであるから、不法行為法上の損害の相当因果関係の問題として考え得る訳であるが、防音工事は将来の侵害行為によつて将来において発生するかも知れないが現在においては未だ存在していない被害の防止を目的とするものであるから、不法行為に関する問題ではなく、それは実は物権的請求権の妨害予防請求権の問題なのであり、両者が基本的にその性質を異にすることはいうまでもないところである。従つて、右原告らの右請求は不法行為に基づくものであるとする主張は失当であるといわなければならない。

ところで、妨害予防請求権は、前示のように、相手方に対して不作為を求める場合が多いが、相手方の費用負担による適当な作為を求めることも許される場合がある(例えば、崩壊のおそれのある建物に支柱を施し、又は崖に崩壊を止める工事をするなど。大審院昭和七年一一月九日判決・民集一一巻二二七七頁、同昭和一二年一一月一九日民集一六巻一八八一頁参照)。そして、その場合に請求者が自己の費用で必要な作為をしたときには相手方に対して費用の償還請求をすることができると解すべきである。本件の場合、作為請求が許されるかどうか、許されるとしても、侵害の防止のためには前示のように多くの対策が考えられるのであるから果して防音工事が最も適当な行為といい得るのかなど検討すべき問題は多いが、いずれにせよ、それは妨害予防請求権の問題であつて、不法行為の問題ではない。そして、その請求の相手方は米軍であつて被告ではない。従つて、右原告らの請求が妨害予防請求権に基づくものであるとすれば、被告は当事者適格を有するものではないから、その点において不適法として却下すべきことになる。

しかし、右請求は民特法ないし生活環境整備法に基づくものとも解し得るので、更に検討することとする。先ず民特法は、前示のように、不法行為による損害賠償について米軍の代りに被告が責任を負う旨定めているが、妨害予防請求権については何ら定めるところがないから、同法に基づいて防音工事の費用や右工事に伴う電気料金の請求を被告に対してすることはできないというべきである。次に、前示のように、生活環境整備法四条は、原告らが航空機騒音による障害の防止又は軽減のため防音工事をする際被告に対して助成措置を請求する権利を与えている。同条は、右限度においていわば前述の妨害予防請求権の被告による部分的な肩代りを認めた規定といえよう。そして、右法条によつて与えられた権利の範囲は同条の解釈によつて定まるところであるが、同条は本件電気料金等の防音設備の利用に伴なう維持管理費までも国の負担とする旨定めたものと解することはできない(なお、立法論としては、検討の余地があるであろう。)。そして、その他の法令中にも右原告らの請求を認める法条は存在しない。従つて、右請求は根拠法条を欠くものとして棄却を免れないものである。

第九消滅時効

一被告は、原告らの損害賠償請求権の発生が認められるとしても、本訴提起の日より三年前までの分は消滅時効が完成しているので、右時効を援用すると主張し、これに対して原告らは、航空機騒音による被害が継続している以上、鉱業法一一五条二項の類推適用により消滅時効は進行しないものと解すべきであると主張しているので、この点について判断する。

航空機騒音等は個々の飛行活動またはエンジンテスト等の作業によつて間欠的断続的に生じているものであるから、厳密にいえば、不法行為は個々の飛行活動またはエンジンテスト等の作業毎に成立しているかどうかを判定すべきことになり、その結果、一日のうちに何回も不法行為が行われていることもあれば、一回もないことになるということもあろう。しかし、本件のような場合、殊に飛行場の供用上の瑕疵による不法行為の場合は、人の生活が一日を単位として営まれることに鑑みれば、右騒音及びそれによる被害は一日を単位として判断するのが適当である(W値も一日を単位として算定されている)。しかし、一日を超えて継続している、又は進行しているものということはできない。従つて、不法行為は日々新たに成立しているものと解すべきであり、それに応じて消滅時効も日々進行するというべきである。以上のとおりであるから、本件不法行為に関し鉱業法一一五条二項を類推適用すべきであるとの見解は、本件における右のような加害行為と被害法益の性質に鑑みると、これを採用することができない。

二次に、右消滅時効の起算点について検討する。

〈証拠〉によれば、以下の事実を認めることができる。本件飛行場周辺の自治体及び住民は、朝鮮戦争(昭和二五年六月)のころから被告に対し騒音の防止軽減対策及び周辺対策の実施を要請し、被告においても昭和二九年ころから行政措置により学校防音工事助成の措置を講ずるようになつたところ、飛行機のジェットエンジン化と大型化に伴い、騒音は一段と激しくなり、昭和三五年一二月ころになると、昭島市堀向自治連合会は、住民一二三五人の署名を添えて昭島市議会に横田基地の騒音防止について請願書を提出し、飛行機による騒音は昭和三〇年四月当時すでに一二五ホンに達することがあり、その後も改善されておらず、住民はこれ以上の騒音にはもはや耐えられない状態であるから、住民の精神的苦痛に対する補償措置及び一般住宅に対する高度の防音措置を講じて欲しい旨の請願に及んだ。翌昭和三六年一月一八日には、周辺関係市町代表が横田基地司令官と会見し、基地の騒音防止対策の検討を申入れた。次いで、昭島市は砂川町、村山町、瑞穂町とともに、「一市三町基地対策連絡協議会」を結成した。更に、地元出身の国会議員が同年二月一五日衆議院議長を経由し、内閣に対し、基地の航空機爆音は、最近人体に及ぼす影響の極限を超え、付近住民は安眠できず、学校教育のみならず日常生活各般に支障をきたしているとして、学校、民家等の国費による完全防音装置の施工、あるいは、移転の補償措置等を講ずることを要望する「ジェット飛行機の騒音に関する質問主意書」を提出した。翌昭和三七年二月米軍がベトナムにおいて作戦を開始して以後、本件飛行場における爆音は一そう激化し、練習機の模擬爆弾が民家の庭先に落下する事故も発生し、住民を不安に陥れた。昭和三九年七月頃、昭島市堀向地区住民の自治会は、「他地区に移転し得る補償を求める」ことを決議し、国に陳情書、市議会に請願書を提出し、昭島市長は右決議を内容とする申請書を東京防衛施設局に送付した。昭和四〇年八月政府は、「集団移転に関する基本方針並びに補償金額算定基準」を示し、同年一〇月には、同防衛施設局と居住者代表、昭和飛行機工業株式会社との間で、移転の方法、補償金額算定等について交渉が開かれた。同年一二月昭島市では移転に関する居住者の意向アンケート調査を実施したところ、九割以上の住民が移転及び土地の入手あつ旋や融資等を希望していることが判明した。

以上の事実が認められるところ、これに加えて、前示のとおり、昭和四〇年頃のベトナム戦争のさなかにある本件飛行場における航空機騒音が激烈を極め、近々同飛行場の周辺に静けさが回復するとは容易に期待できない状況にあつたこと、そして、以上の本件飛行場の航空機騒音をめぐる各市町当局や周辺住民の動きは昭島市の広報誌及び大手新聞社発行の日刊新聞に掲載記事として広く一般に紹介されていたこと等を総合勘案すると、昭和四〇年頃、原告らを含む本件飛行場周辺に居住する住民は、本件不法行為について加害者は米軍であり、損害は受忍限度を著しく超えるものであることを生活体験として十分認識していたものと認めるのが相当である。

ところで、原告らは、民法七二四条所定の「損害を知つたとき」とは、単に損害の発生だけではなく、加害行為が不法行為として成立することをも知ることが必要であるとし、本件において米軍機による飛行活動が違法であることの認識は複雑な判断過程を経て到達しうるものであり、一般人である原告らの得た資料だけでそのような違法判断を下すのは不可能であると主張する。もとより、損害を知るというからには、損害の発生したことのほかに、右損害が違法な加害行為に基づいて発生したことの認識をも含むと解すべきであるが、本件のごとく航空機の騒音による加害行為の違法性の認識については、被害者において右受忍限度超過についての認識があれば足り、そして、右認識は一般通常人を基準とするのであるから、高度の法律的知識の助けがなくても違法性の認識判断は可能であるというべきである。そして、前示のとおり、本件飛行場周辺の昭和四〇年当時における騒音について原告らを含む周辺住民が、航空機騒音が受忍限度を超えていたとの認識を抱いていたことを十分肯認することができるのである。

さらに、原告らは、昭和四〇年当時、本件航空機騒音による損害賠償の義務者を法的に正しく認識してはいなかつたこと、換言すれば、本件飛行場周辺の住民が民特法の規定を知つているなどとは考えられず、これによつて、国を相手に損害賠償請求訴訟を提起できるとは思わなかつた旨主張する。確かに、民法七二四条にいう加害者とは損害賠償義務者の意味に解すべきである。しかし、例えば、民法七一五条の場合、「加害者を知るとは、被害者らにおいて、使用者ならびに使用者と不法行為者との間に使用関係がある事実に加えて、一般人が当該不法行為が使用者の事業の執行につきなされたものであると判断するに足りる事実をも認識することをいうと解するのが相当である。」(最高裁昭和四〇年(オ)四八六号同四四年一一月二七日一小判決・民集二三巻二二六六頁)とされているが、民法七一五条の法条の存在までも認識する必要はないのである。これを本件についてみると、右の場合の使用関係に当たる事実は、新安保条約及び地位協定によつて被告が米軍に対して本件飛行場を基地として提供しているということであり、職務執行行為に当たる事実は、公務としての米軍機の飛行であり、いずれも原告らの熟知しているところである。民特法の存在は、七一五条の存在と同様に、被害者の認識すべき事実のうちには含まれず、これを知らなかつたとしても、法の不知というに過ぎないものというべきである。のみならず、すでに認定したとおり、本件飛行場の周辺住民は精神的苦痛に対する補償措置や一般住宅に対する高度の防音装置を講ずるよう被告(東京防衛施設局)との間に折衝を行つていたのであるから、国に対して請求することができることを知つていたものと推認できるのである。

以上のとおりであるから、本件における消滅時効の起算点は、遅くても、昭和四一年一月一日と解するのが相当である。又、同日以後に本件地域に転入してきた原告らについては、転入の時より消滅時効は進行するものというべきである。

三原告らは、さらに、被告が住宅防音工事等の周辺対策を行つたことをもつて時効利益の放棄ないし債務の承認に当たる旨主張するが、いずれも独自の見解であり採用することができない。又、原告ら主張のように被告の時効完成の援用が権利の濫用であり、あるいは信義則に反すると認めるに足りる証拠はない。

四そうすると、本件損害賠償請求権のうち、昭和四〇年一二月三一日までに発生した分は一括して昭和四一年一月一日以降、同日以降に発生した分は日々その都度消滅時効が進行するものと解すべく、従つて本件訴訟提起の日のあることが記録上明らかな第一次訴訟につき昭和五一年四月二八日、第二次訴訟につき同五二年一一月一七日よりそれぞれ三年前の日より前に発生した被害についての原告らの損害賠償請求権は、民法七二四条の定める三年の期間の経過により時効で消滅したものというべきである。よつて被告の時効の援用はその限度において理由がある。

第一〇損害賠償額の算定

一まず、賠償請求可能期間は、前示のとおり、別表第一・1記載の第一次訴訟の各原告らについては、訴訟提起日の三年前の日である昭和四八年四月二八日から、同第一・2記載の第二次訴訟の各原告らについては、訴訟提起日の三年前の日である昭和四九年一一月一七日から当審口頭弁論終結日である昭和六二年一月二八日までの期間(転入、転居又は死亡の場合はそれぞれの期間)ということになる。

原告らは、右過去の慰藉料の請求につき、本訴提起日を境として、昭和三五年六月二三日以降本訴提起に至るまでの期間と本訴提起日(原告らは「本訴状送達の日の翌日」というが誤記と認める。)以降当審口頭弁論終結日までの期間とに分けてそれぞれ請求しているところ、このうち、前者の期間にかかる慰藉料請求額一一五万円が本訴提起日までに生じたとする慰藉料額全体のうち、どの部分の期間に相当するかについては必ずしも明らかとはいえないのであるが、当裁判所としては、原告らの請求は、被告の消滅時効の抗弁が認容される場合を慮つて、まづ、時効が完成しない時期以降に発生する慰藉料の内金を求め、次いで時効が完成する可能性のある時期の慰藉料の内金を請求する趣旨であると解する。そして、便宜上、時効が完成する最後の日の翌日から本訴提起日までの期間を期間と呼び、本訴提起日以降当審口頭弁論終結日までの期間を期間と呼ぶこととする。

二そこで、各原告らの賠償請求可能期間における居住地、居住時期及び居住期間が決定されなければならない。又、危険への接近の時期の判定のために、転入時期を明らかにする必要がある。以上の事実は、別表第一・1・2記載のとおりである(右事実は、〈証拠〉によりこれを認める。)。

なお、原告島田直吉は、昭和五五年四月以降満三か年は現住居に非居住であつたこと(〈証拠〉)が認められるので、同原告について右期間は賠償期間に算入しないこととする。

三次に、各原告の居住地におけるW値を決定して、それが受忍限度を超えるものであるかどうか、又、もし超えるとすればどの程度であるかを判定しなければならない。そのためには、厳密にいえば、各原告の居住地においてそれぞれのW値を測定する必要があるが、本件においてその作業はなされていない。そこで、近似値として騒音コンター図を採用することとする。本件ではその基本的な資料として〈証拠〉(旧コンター図)と〈証拠〉(新コンター図)とがある。前者はW方式中の前記法令所定の方法によつて作成されているのに対し、後者はそれとは若干異なる方法によつているが、これは軍用飛行場の実態に合うように工夫修正されたもので、後者の方法は前者の方法に準ずるものと認められるので、右乙号証をW値決定の資料として採用することとする。

次に、新旧両コンター図の適用時期について検討するに、前記の書証によれば、旧コンター図は昭和四八年の調査に基づくものであり、他方、新コンター図はそのための本調査が昭和五二年七月一八日から七月二五日までの間においてなされたことが認められるので、新コンター図によるW値の適用は昭和五二年八月一日以降とし、同年七月三一日以前は旧コンター図のW値を適用することとする。

そこで、〈証拠〉を総合すると、各原告らの居住地の新旧コンター図におけるW値は別表第一・1・2各記載のとおりである(なお、原告福本龍藏の居住地は、〈証拠〉によれば、新コンター図W値九〇の線上にあると認められるので、同所のW値は九〇と判断する。)。右に判示したように、原告らの居住地の大部分はW値八〇以上の地域に所在しているが、原告板倉金吉ほか一二名の居住地はいずれもW値七五の地域に所在している。しかし、前示のとおり、右居住地はいずれも類型Ⅰの地域に属するものであるから、右原告らについても右W値以上の騒音は違法性を帯びることになる。なお、東京都公害局(環境保全局)の調査にかかる昭和五一年度ないし昭和六〇年度のW値コンター図(〈証拠〉)も右認定判断と齟齬するものではない。

また、防衛施設庁告示にかかるW値に基づく地域指定による周辺住民の居住区域は、必ずしも正確にコンター図によるW値の範囲と一致せずこれを基準として政策的に修正し決定されたものであるから、原告ら居住地のW値の正確な決定のための資料とはなり難いものである。

四慰藉料算定の基準額は、前示の原告らの被つた被害とその他諸般の事情を総合考慮して、類型Ⅰの地域においては受忍限度であるW値七五の騒音による被害に対して一カ月金二五〇〇円、類型Ⅱの地域においては受忍限度であるW値八〇の騒音による被害に対して一か月金五〇〇〇円とするのを相当と考える。

そして、増額要件として、W値五を増す毎に、金二五〇〇円を加算することとし、W値九〇台以上の場合はその被害の程度を考慮してW値五を増す毎に金五〇〇〇円を加算することとする。なお、類型Ⅰの場合も同Ⅱの場合も同じW値の騒音から受ける被害は同じであると認めるべきであるから、同一のW値については同額の慰藉料とする。

そうすると、原告らの各居住地のW値別の一か月当たりの慰藉料額は次のとおりとなる。

一か月当たりの慰藉料算定基準

W値七五以上八〇未満 二五〇〇円

〃八〇以上八五未満 五〇〇〇円

〃八五以上九〇未満 七五〇〇円

W値九〇以上九五未満 一万円

〃九五以上一〇〇未満 一万五〇〇〇円

なお、基準額は、右のように、月当たりで示すこととした。前示のように、不法行為は日毎に発生していると解すべきであるから、厳密にいえば損害額も日毎に計算すべきことになる。しかし、既に原告ら居住地のW値の決定に際してもコンター図による近似値を採用していることでもあり、又、原告らも月当たりで賠償額を請求しているので、月当たりの基準額を定めれば十分であると考える。

五減額要件は、前示のとおり、危険への接近と住宅防音工事の二つである。

1  昭和四一年一月一日以後受忍限度を超える被害地域へ転入した者は、前記の慰藉料基準額の二割減とする。

2  住宅防音工事の助成を受けた者は、前示のように、本判決別表第一・1・2のとおりであるが、施工日の翌日以降施工部屋数一室当たり前記の慰藉料基準額の一割減とする(助成の申請名義人が原告以外の者であつても原告において右防音工事による利益を受けている限り右基準を適用する。)。

六弁護士費用

〈証拠〉により、原告らの代表者と同訴訟代理人らの代表者との間において、昭和五五年三月一日付で本件第一次及び第二次訴訟の訴訟委任に伴う弁護士費用として損害賠償認容額の一五パーセントを支払う旨の弁護士報酬契約を締結したことが認められるところ、本件訴訟遂行上の難易度、右報酬請求権発生時(前記認定にかかる本件損害賠償請求権成立時)から右報酬支払時までの期間に生ずる中間利息を控除すべきこと並びにその他諸般の事情を考慮し、慰藉料認容額の一〇パーセント相当の金額をもつて本件航空機騒音等による不法行為と相当因果関係のある損害と認める。なお、遅延損害金については、報酬請求権も損害賠償請求権と同時に発生し、かつ遅滞に陥つたものとして、これと同様に取扱うこととする(その結果、損害賠償認容額の判明する本判決言渡時においては、報酬額とその遅延損害金の合計額は、右認容額の約一五パーセントになることが計数上明らかである。)。

七以上に判示した各要件を基にして、本件原告らの請求にかかる本件慰藉料等損害賠償額を算定すると、別表第一・1・2の損害賠償額欄記載の各金員となることが認められる。そして、右金員の算出の諸要素及び計算式は、別表第二記載のとおりである。

そして、右慰藉料等損害賠償認容額に対する遅延損害金として、別表第二の賠償期間の金員(合計欄記載の金員)に対する遅延損害金については、右金員に対する本件各訴状送達日(別表第一・1記載の原告らについては昭和五一年五月二一日、同2記載の原告らについては昭和五二年一二月九日――右はいずれも本件記録上明らかである。)の翌日以降各完済まで年五分の割合による金員を、賠償期間の金員(各小計欄記載の金員の合計額)に対する遅延損害金については、月当たり賠償額欄記載の各金員毎に、右金員に対する各期間欄中これに対応する各月の翌月一日以降各完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ認容すべきである。

第一一結論

以上の理由により、昭和五六年(ネ)第二二七五号事件については、まず、原告らの昭和六二年一月二八日までに生じたとする本件慰藉料等損害賠償請求中、本判決別表第一・1・2各損害賠償額欄記載の各金員並びに右金員に対する本判決別表第二記載の期間についての年五分の割合による各遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当としていずれもこれを棄却し、原告らの昭和六二年一月二九日以降生ずべき将来の慰藉料損害賠償請求にかかる訴えについては不適法としていずれもこれを却下すべく、よつて、主文第一項1のとおり原判決主文第2及び第3項を変更することとし、次に、原告らの本訴請求中、飛行差止請求(主位的請求)は不適法として却下すべきところ、これと結論を同じくする原判決に対する本件控訴は理由がないから民訴法三八四条二項により主文第一項2のとおりこれを棄却することとし、本訴請求中、当審において新たに請求した予備的飛行差止請求並びに電気料金相当損害金賠償請求はいずれも失当として主文第一項3のとおりこれを棄却することとし、昭和五六年(ネ)第一七九一号事件については、被告の本件控訴は理由がないから民訴法三八四条一項により主文第二項のとおりこれを棄却することとし、更に、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九二条、九三条を適用して主文第三項のとおり判決し、又、原告らに即時執行の利益を与えるべき必要のあることに照らし、同法一九六条一項により本判決主文第一項・1・(一)・(1)の部分に限り仮執行宣言を付し、その余については付さないこととし、併せて仮執行免脱宣言につき同法一九六条三項を適用し主文第四項のとおりとする。

なお、被告の民訴法一九八条二項による申立については、本案判決の変更されないことを解除条件とするものというべきであるから、これについては判断を示さない。

(裁判長裁判官武藤春光 裁判官菅本宣太郎 裁判官山下 薫)

別表第一損害賠償額一覧表

〔説明〕

1 第一・1は原審昭和51年(ワ)第405号事件原告ら(「一次原告」という。)について、第一・2は原審昭和52年(ワ)第1356号事件原告ら(「二次原告」という。)についてそれぞれ記載した。

2 原告番号・二審欄は当審における原告の通し番号を、同・一審欄は原審における原告番号を一次原告と二次原告に分けてそれぞれ表示した。

3 居住地欄には昭和40年12月31日以前に入居した居住地、賠償期間開始前の直近の居住地、賠償期間中の転居先、コンター外転出先等を表示した。なお、同欄のうち、かつこ書き内の居住地は一行上の居住地の住居表示変更後の新表示を示す。

4 W値旧・新欄記載のうち、かつこ付で上下段に記載した数値は、上段が旧コンター図によるW値、下段が新コンター図によるW値を示す。

5 損害賠償額(円)欄は本件慰藉料認容額(弁護士費用を含む)を、遅延損害金欄は右損害賠償額に対する遅延損害金(別表第二損害賠償額算定計算式等一覧表記載のとおり算定した金額)をそれぞれ示す。

6 備考欄中、コンター外転出とは、賠償期間最終日の翌日以降W値80未満(類型Ⅱ)又は75未満(類型Ⅰ)地区若しくは他地区へ転出したことをいう。

別表第一・1

原告

番号

氏名

居住地

転出入

年月

W値旧新

賠償期間

住宅防音

工事

損害

賠償額

(円)

遅延損害金

備考

(減額

事項他)

二審

一審

施行日

室数

1

1-1

福本龍藏

昭島市拝島町

4078-11

(同市美堀町

3-13-1)

32.11

90

90

48.4.28~

62.1.28

52.9.30

55.11.15

58.3.31

1

1

1

1,558,700

別表第二損害賠償額算定計算式等一覧表記載のとおり

防音工事

2

1-2

工藤千代子

昭島市拝島町

4079

(同市美堀町

3-8-11)

20.4

90

90

同上

1,815,000

3

1-3

中谷澄子

昭島市拝島町

4071-31

(同市美堀町

3-3-16)

46.2

90

90

同上

1,452,000

41.1

以降入居

4

1-4

千葉ミネ子

昭島市拝島町

4071

同市拝島町

4051-63

43.1

55.4

90

85

新85

同上

52.3.31

2

1,034,400

41.1

以降入居

防音工事

5

1-8

中島ウメ

昭島市拝島町

4051-122

24.10

80

80

同上

59.3.15

1

886,500

防音工事

6

1-9

西田二郎

昭島市拝島町

4071

32.2

80

80

同上

907,500

7

1-10

隅琢磨

昭島市拝島町

3922

(同市美堀町

4-6-4)

37.10

90

90

同上

52.9.30

52.3.31

55.12.25

57.11.30

1

1

1

1

1,439,900

防音工事

8

1-11

前原千代美

昭島市拝島町

4079

同市美拝島町

3913-39

(同市美堀町

4-8-6)

15.5

43.3

旧90

90

90

同上

52.3.31

55.12.20

1

2

1,524,600

防音工事

9

1-12

神崎清

昭島市拝島町

3906

(同市美堀町

5-2-4)

47.5

85

85

同上

53.9.30

59.11.25

1

2

985,200

41.1以降入居

防音工事

10

1-13

増田憲一

昭島市拝島町

3953

第四都営41号

(同市美堀町

4-16-5)

30.2

90

90

同上

1,815,000

11

1-14

池本香

昭島市拝島町

3957

同市同町

3639-24

同市同町

3639

(同市美堀町

4-25-8)

36.4

48.8

51.2

旧85

85

85

新85

同上

1,353,000

12

1-15

和田誠吾

昭島市松原町

1-5-22

同市拝島町

3649

(同市緑町

2-28-12)

30.7

53.9

90

85

新80

同上

52.3.31

56.10.20

1

1

1,170,500

防音工事

低W値地区転入

13

1-16

栗原保二

旧姓金子

昭島市松原町

1-9-5

同市福島町

998

都営東中神

アパート

12棟504号

29.1

56.11

90

85

48.4.28~

56.11.26

53.9.30

1

957,000

別表第二損害賠償額算定計算式等一覧表記載のとおり

防音工事

コンター外

転出

14

1-17

望月子タ郎

昭島市松原町

1-9-16

37.3

90

85

48.4.28~

62.1.28

52.12.25

57.3.20

1

1

1,362,200

防音工事

15

1-18

勇トラ承継人

勇良夫

勇福夫

昭島市拝島町

4079

同市松原町

1-9-14

22.10

43.2

旧90

90

85

48.4.28~

56.3.18

52.12.25

1

(890,600

445,300

445,300

防音工事

56.3.18死亡

16

1-19

小林昭子

昭島市松原町

1-9-14

同市昭和町

1-4-1

33.2

52.9

90

85

48.4.28~

52.9.3

569,200

コンター外

転出

17

1-20

野田冨美子

昭島市拝島町

3553

36.5

90

85

48.4.28~

62.1.28

53.11.15

57.11.30

2

3

1,212,400

防音工事

18

1-21

中島朋男

昭島市拝島町

3549

(同市緑町

1-6-13)

40.6

90

85

同上

53.3.31

1

1,411,000

防音工事

19

1-22

大野悦子

昭島市拝島町

3554-4

(同市緑町

1-2-15)

43.1

90

85

同上

52.3.31

1

1,117,800

41.1

以降入居

防音工事

20

1-23

小川智司

昭島市拝島町

3509-1第五都営25号

39.6

90

85

同上

53.3.31

2

1,326,200

防音工事

21

1-26

敦賀平山

昭島市上川原町

189

同市田中町

507-8

(同市大神町

2-1-16)

46.4

49.12

旧90

90

85

同上

1,201,200

41.1

以降入居

22

1-27

枝川栄次

福生市大字

熊川1620

越谷市七左町

2-328-2

44.11

54.5

85

90

48.4.28~

54.5.19

530,200

41.1

以降入居

コンター外転出

23

1-28

福井彌助

福生市大字熊川1641-1

41.4

85

80

48.4.28~

62.1.28

53.7.31

1

787,200

41.1

以降入居

防音工事

24

(欠番)

25

1-30

島田直吉

福生市大字熊川

1686-7

東京都三宅島

三宅村坪田

4348

福生市大字熊川

1686-7

41.2

55.4

58.4

85

80

新80

48.4.28~

55.3.31

58.4.15~

62.1.28

679,800

41.1

以降入居

三宅島への

単身転居期間中

控除

26

1-31

佐藤人志

福生市大字熊川

1640

32.6

85

80

48.4.28~

62.1.28

52.3.31

1

973,600

防音工事

27

1-32

岡征枝

福生市大字熊川

1608

同市大字熊川

1679-5

同市大字熊川

1639

37.11

44.5

51.12

旧85

旧85

85

80

同上

54.1.17

58.11.12

1

1

968,100

防音工事

28

1-33

岩田友子

福生市大字熊川

1641

43.5

85

80

同上

54.1.17

1

790,200

41.1以降入居

防音工事

29

1-34

原島征男

福生市大字熊川

1691-26

47.1

85

80

同上

55.12.25

61.3.25

1

1

797,700

41.1以降入居

防音工事

30

1-35

成川末雄

福生市大字熊川

1640

同市大字熊川

1414-16

32.6

52.12

85

80

48.4.28~

52.12.1

440,200

コンター外

転出

31

1-36

板倉金吉

福生市大字熊川

1315第三都営

101号

青梅市今井

3-16-14

37.6

54.8

75

75

48.4.28~

54.8.-

202,500

コンター外

転出

32

1-37

水島フミ子

福生市大字熊川

1315

第三都営85号

37.1

75

75

48.4.28~

62.1.28

445,500

33

1-38

山田好文

福生市大字熊川

1315

第四都営8号

37.1

75

75

同上

445,500

34

1-40

森田マサエ

立川市砂川町3644-6

(同市西砂町

3-35-9)

41.11

95

90

同上

59.3.29

1

1,645,800

41.1以降入居

防音工事

別表第一・2

原告

番号

氏名

居住地

転出入

年月

W値旧新

賠償期間

住宅防音

工事

損害

賠償額

(円)

遅延損害金

備考

(減額

事項他)

二審

一審

施行日

室数

35

2-1

遠山陽一

福生市大字熊川

1690

44.4

85

80

49.11.17~

62.1.28

712,800

別表第二損害賠償額算定計算式等一覧表記載のとおり

41.1

以降入居

36

2-2

宮橋敏男

福生市大字熊川

1620-16

49.12

85

90

49.12.-~

62.1.28

54.12.25

60.3.31

1

4

1,054,300

41.1

以降入居

防音工事

37

2-3

石川日出夫

福生市大字熊川

1620

(同市大字熊川

1620-29)

47.12

85

90

49.11.17~

62.1.28

54.9.20

59.12.20

2

3

991,000

41.1

以降入居

防音工事

38

2-4

芝田保

福生市大字熊川

1620-25

47.8

85

90

同上

57.10.15

1

1,167,600

41.1

以降入居

防音工事

39

2-5

小林庸了

福生市大字熊川

1618

48.4

85

80

同上

54.3.31

1

665,800

41.1

以降入居

防音工事

40

2-6

荒本富士男

福生市大字熊川

1616-6

47.7

85

80

同上

54.12.25

2

636,300

41.1

以降入居

防音工事

41

2-7

高橋フジ

福生市大字熊川

1616-4

(同市大字福生

1084-7)

47.4

57.7

85

80

49.11.17~

57.7.6

54.1.17

55.10.20

1

1

442,300

41.1

以降入居

防音工事

コンター外転出

42

2-8

佐藤清志

福生市大字熊川

1616-8

(同市大字熊川

1616-13)

47.9

85

80

49.11.17~

62.1.28

53.10.31

60.12.5

2

2

611,100

41.1

以降入居

防音工事

43

2-9

井上昭三

福生市大字熊川

1641

(同市大字熊川

1617)

38.7

49.12

旧85

80

同上

889,400

44

2-10

岡部利勝

福生市大字熊川

1685-3

45.6

85

80

同上

57.10.15

2

666,000

41.1

以降入居

防音工事

45

2-12

御供所弘人

福生市大字熊川

1690-11

44.1

85

80

同上

55.10.20

60.12.5

1

2

662,700

41.1

以降入居

防音工事

46

2-13

田村正義

昭島市拝島町

3927

福生市大字熊川

1689-35

昭島市中神町

32-5

37.6

47.9

57.6

旧90

85

80

49.11.17~

57.6.-

581,400

コンター外転出

47

2-14

森下一郎

福生市大字熊川

1689-23

49.1

85

80

49.11.17~

62.1.28

712,800

41.1

以降入居

48

2-15

吉田正彦

福生市大字熊川

1689-22

47.7

85

80

同上

53.10.31

57.11.30

1

3

598,300

41.1

以降入居

防音工事

49

2-16

上田智二

福生市大字熊川

1690-3

47.7

85

80

同上

712,800

41.1

以降入居

50

2-17

宮崎信夫

福生市大字熊川

1693-4

東京都西多摩郡

羽村町神明台

1-16-1

島田第二

マンション108

49.5

55.5

85

80

49.11.17~

55.5.9

356,400

41.1

以降入居

コンター外転出

51

2-18

柏原金三

福生市大字熊川

1692-16

49.7

85

80

49.11.17~

62.1.28

53.10.31

2

623,700

41.1

以降入居

防音工事

52

2-19

桑原太郎

福生市大字熊川

1690-6

東京都西多摩郡

羽村町神明台

4-2-33

44.2

53.10

85

80

49.11.17~

53.10.5

272,800

41.1

以降入居

コンター外転出

53

2-20

鈴木一郎

福生市大字熊川

1657-3

37.11

80

80

49.11.17~

62.1.28

56.3.31

2

726,000

別表第二損害賠償額算定計算式等一覧表記載のとおり

防音工事

54

2-21

仲村清信

昭島市拝島町

3623-3

福生市大字熊川

1492-12

38.7

41.4

旧80

75

75

同上

394,200

55

2-22

小俣義雄

福生市大字熊川

1640

32.7

85

80

同上

52.3.31

1

817,800

防音工事

56

2-23

細川重利

福生市大字熊川

1639

39.12

85

80

同上

889,400

57

2-24

欠瀬道男

福生市大字熊川

1679-5

昭島市中神町

1277

都営中神

アパート

15棟1523号

46.6

53.1

85

80

49.11.17~

53.1.31

237,600

41.1

以降入居

コンター外転出

58

2-25

枝川清

福生市大字熊川

1640番地

32.6

85

80

49.11.17~

62.1.28

52.9.19

1

822,200

防音工事

59

2-26

荒木秋義

福生市川字熊川

1504-4

調布市佐須町

386佐藤莊

47.4

53.8

85

80

49.11.17~

53.8.25

268,400

41.1

以降入居

コンター外転出

60

2-27

斉藤二三

福生市大字熊川

1640

東京都西多摩郡

羽村町羽中

4-8-19

44.6

53.7

85

80

49.11.17~

53.7.3

52.3.31

1

251,300

41.1

以降入居

防音工事

コンター外転出

61

2-28

斉藤敬治

福生市大字熊川

1583

42.7

85

90

49.11.17~

62.1.28

1,214,400

41.1

以降入居

62

2-30

濱屋俊雄

福生市大字熊川

1640

同市大字熊川

1642-29

群馬県高崎市南

4-4

シーザー

レジデンス204号

32.6

51.12

58.3

旧85

80

80

49.11.17~

58.3.-

57.3.25

1

602,700

防音工事

コンター外転出

63

2-32

高橋茂治

福生市大字熊川

1640

32.5

85

80

49.11.17~

62.1.28

52.9.19

1

822,200

防音工事

64

2-33

田村政二

福生市大字熊川

1640

32.6

85

80

同上

52.11.30

1

823,400

防音工事

65

2-34

羽澄達男

福生市大字熊川

1639

同市大字熊川

1641

昭島市拝島町

4051-140

50.12

53.9

58.3

8580

新80

新80

50.12.27~

62.1.28

54.12.25

2

550,500

41.1

以降入居

防音工事

66

2-35

小松利夫

福生市大字熊川

1315

第三都営

174号

日野市多摩平

1-10

都営多摩平

一丁目アパート

1-509

37.1

60.5

75

75

49.11.17~

60.5.-

337,500

コンター外転出

67

2-36

緒方高次

福生市大字熊川

1315

第三都営33号

46.10

75

75

49.11.17~

62.1.28

321,200

41.1

以降入居

68

2-37

菅原喜久子

福生市大字熊川

1315

第四都営16号

41.6

75

75

同上

321,200

41.1

以降入居

69

2-39

松本平九郎

福生市大字熊川

1315

第四都営33号

日野市平山

4-20

都営日野平山

アパート

6-102

37.3

51.12

75

75

49.11.17~

51.12.-

64,800

コンター外転出

70

2-40

酒枝尚雄

福生市大字熊川

1315

第四都営47号

東京都西多摩郡

檜原村4239

47.7

53.8

75

75

49.11.17~

53.8.-

96,800

41.1

以降入居

コンター外転出

71

2-41

土方美千子

福生市大字熊川

1315

第四都営23号

同市大字熊川

1102

37.11

59.11

75

75

49.11.17~

59.11.-

321,300

コンター外転出

72

2-44

山嵜裕弘

福生市大字熊川

1315第三都営

104号

37.2

75

75

49.11.17~

62.1.28

394,200

73

2-45

金井和夫

立川市砂川町

3644-5

(同市西砂町

3-35-10)

44.8

95

90

49.11.17~

62.1.28

59.3.29

2

1,364,400

別表第二損害賠償額算定計算式等一覧表記載のとおり

41.1

以降入居

防音工事

74

2-46

田中勝利

立川市砂川町

3738

同市砂川町

4150-2

(同市一番町

6-18-2)

39.4

57.2

90

90

49.11.17~

57.2.-

56.3.31

2

924,000

防音工事

コンター外転出

75

2-48

遠藤七藏

昭島市拝島町4071

28.1

90

85

49.11.17~

62.1.28

52.9.30

57.11.30

1

2

1,112,200

防音工事

76

2-49

浅井陽介

昭島市昭和町

5-12-14

同市拝島町

4051-130

51.6

51.11

旧85

85

85

51.6.-~

62.1.28

54.12.15

2

717,800

41.1

以降入居

防音工事

77

2-50

松井清男

昭島市拝島町

4051-133

23.9

85

85

49.11.17~

62.1.28

52.9.30

1

1,107,600

防音工事

78

2-52

森山幸夫

昭島市拝島町

4051-70

40.12

85

85

同上

53.8.10

1

1,115,600

防音工事

79

2-53

後藤和枝

昭島市拝島町

4051-109

28.5

85

80

同上

56.1.10

1

845,600

防音工事

80

2-54

石森善次郎

昭島市拝島町

4051-82

24.10

80

80

同上

57.3.29

1

768,200

防音工事

81

2-55

堀川百合子

昭島市拝島町

4071

46.8

80

80

同上

59.10.31

1

628,900

41.1

以降入居

防音工事

82

2-56

吉野榮二

昭島市拝島町

4051-90

24.10

80

80

同上

57.10.25

1

772,400

防音工事

83

2-57

野島一芳

昭島市拝島町

4071

24.10

80

80

同上

56.12.21

1

766,400

防音工事

84

2-59

大貫忠次郎

昭島市拝島町

4067-14

40.9

80

80

同上

57.11.20

1

773,000

防音工事

85

2-65

大野秀雄

昭島市拝島町

3922

(同市美堀町

4-6-8)

34.8

90

90

同上

52.9.30

56.12.19

1

3

1,281,50

防音工事

86

2-67

冨士原武雄

昭島市拝島町

3922

(同市美堀町

4-6-5)

47.5

90

90

同上

52.3.31

56.12.19

11

1,123,700

41.1

以降入居

防音工事

87

2-68

西出清順

昭島市拝島町

3906-4

(同市美堀町

5-2-3)

23.5

85

90

同上

1,516,400

88

2-69

伊藤運藏

昭島市拝島町

3911-6

(同市美堀町

5-1-14)

34.2

85

90

同上

52.3.31

56.12.19

1

3

1,186,500

防音工事

89

2-70

原島久昌

昭島市拝島町

3870

(同市美堀町

5-8-2)

28.5

85

85

同上

53.3.31

57.11.30

1

3

987,400

防音工事

90

2-71

川村立夫

昭島市拝島町

3870

(同市美堀町

5-8-3)

37.9

85

85

同上

53.3.31

59.3.31

1

3

1,027,400

防音工事

91

2-72

永野透

昭島市拝島町

3906

(同市美堀町

5-2-5)

42.1

85

85

同上

53.3.31

59.3.31

1

1

865,600

41.1

以降入居

防音工事

92

2-73

土方章子

昭島市拝島町

3953第四都営105号

(同市美堀町

4-22-6)

38.12

85

85

49.11.17~

59.10.28

53.3.31

56.12.21

1

2

854,800

防音工事

59.10.28死亡

(承継手続未了)

93

2-74

田島昌子

昭島市拝島町

3957-2

(同市美堀町

4-24-4)

44.3

85

85

49.11.17~

62.1.28

57.10.25

2

892,200

別表第二損害賠償額算定計算式等一覧表記載のとおり

41.1

以降入居

防音工事

94

2-75

木下定夫

昭島市拝島町

3638-13

(同市美堀町

4-25-16)

35.9

85

85

同上

58.3.25

1

1,160,400

防音工事

95

2-77

神田和子

昭島市拝島町

3953

第四都営59号

(同市美堀町

4-18-2)

46.12

90

90

同上

52.12.15

56.12.21

1

1

1,130,900

41.1

以降入居

防音工事

96

2-78

橘孝

昭島市松原町

1-18-4

同市松原町

1-18-14

40.7

42.10

旧90

90

85

同上

1,286,800

97

2-80

石崎ソノ

昭島市拝島町

2465

同市松原町

1-14-2

武藏村山市学園

3-99-7

24.3

41.1

61.5

旧80

90

85

49.11.17~

61.5.-

53.8.10

1

1,138,600

防音工事

コンター外転出

98

2-82

土田志ん

昭島市昭和町

5-10-5

同市田中町

535

31.3

44.12

旧85

90

85

49.11.17~

62.1.28

59.10.25

1

1,265,200

防音工事

99

2-83

志茂ヨシヱ

昭島市松原町

1-9-2

秋川市牛沼

198-4

23.3

58.3

90

85

49.11.17~

58.3.-

901,400

コンター外転出

100

2-84

細貝光男

昭島市松原町

1-10-11

45.12

90

85

49.11.17~

62.1.28

53.2.28

57.3.25

2

1

849,400

41.1

以降入居

防音工事

101

2-85

北島正子

昭島市拝島町

4071

同市松原町

1-10-7

24.8

45.4

旧90

90

85

同上

52.3.31

55.12.25

1

2

1,067,100

防音工事

102

2-86

田﨑善藏

昭島市松原町

1-10-10

45.2

90

85

同上

53.3.31

1

959,800

41.1

以降入居

防音工事

103

2-87

金子利夫

昭島市松原町

1-9-16

29.11

90

85

同上

52.3.31

1

1,191,200

防音工事

104

2-88

武田茂

昭島市松原町

1-9-16

同市つつじが丘

2-5-19

308号

37.8

58.8

90

85

49.11.17~

58.8.-

52.3.31

56.2.20

1

1

857,200

防音工事

コンター外転出

105

2-89

金子延江

昭島市松原町

1-9-16

29.9

90

85

49.11.17~

62.1.28

1,286,800

106

2-90

市澤終治

昭島市昭和町

5-1-13

同市松原町

1-9-15

39.4

44.11

旧80

90

85

同上

53.3.31

1

1,202,000

防音工事

107

2-91

柳沼康夫

昭島市松原町

1-9-15

29.11

90

85

同上

53.2.28

57.3.20

1

1

1,154,800

防音工事

108

2-92

小島一男

昭島市松原町

1-9-14

29.9

90

85

同上

52.3.31

56.2.20

1

1

1,134,400

防音工事

109

2-93

藤尾仙之助

昭島市松原町

1-9-14

29.9

90

85

同上

52.11.30

57.3.20

1

1

1,152,400

防音工事

110

2-94

大森康司

昭島市松原町

1-9-14

42.9

90

85

同上

52.2.28

57.3.20

1

1

909,100

41.1

以降入居

防音工事

111

2-95

金澤顕雄

昭島市拝島町

3509-1

第五都営39号

35.9

90

85

同上

1,286,800

112

2-96

鈴木たけ

昭島市拝島町

3509-1

第五都営45号

36.3

90

85

同上

1,286,800

113

2-97

小出政司

昭島市拝島町

3509-1

第五都営7号

西多摩郡瑞穂町

大字箱根ヶ崎

1869-2

35.9

59.3

90

85

新80

同上

53.8.10

1

1,138,700

別表第二損害賠償額算定計算式等一覧表記載のとおり

防音工事

低W値地区転入

114

2-98

金谷十藪

昭島市上川原町

189-11

(同市田中町

1-1-15)

39.4

90

85

同上

58.11.20

1

1,256,400

防音工事

115

2-99

毛利紀子

昭島市上川原町

189-9

(同市田中町

1-1-13)

44.7

90

85

同上

56.10.31

1

989,900

41.1

以降入居

防音工事

116

2-100

小川すみ子

昭島市上川原町

189-7

(同市田中町

1-1-11)

43.12

90

85

同上

56.3.31

1

985,000

41.1

以降入居

防音工事

117

2-101

遠山まさ

昭島市昭和町

5-6-14

21.11

85

80

同上

889,400

118

2-102

小林達三

昭島市昭和町

4-11-21

35.4

75

75

同上

394,200

119

2-103

臼井愛子

昭島市拝島町

3207-5

(同市緑町

2-25-5)

42.4

75

75

同上

321,200

41.1

以降入居

120

2-104

後藤利雄

昭島市拝島町

3563-36

(同市緑町

1-1-33)

46.9

90

85

49.11.17~

59.9.22

54.10.20

2

766,600

41.1

以降入居

防音工事

59.9.22死亡(承継手続未了)

121

2-105

太田清

昭島市拝島町

3563-31

(同市緑町

1-1-33)

46.8

90

85

49.11.17~

62.1.28

52.9.30

56.1.10

1

3

809,600

41.1

以降入居

防音工事

122

2-106

二宮民江

昭島市拝島町

3563-32

(同市緑町

1-1-33)

47.10

90

85

同上

52.9.30

57.3.25

1

2

880,200

41.1

以降入居

防音工事

123

2-107

山﨑功

昭島市拝島町

2406-2

同市拝島町

3489-2

同市緑町

1-10-4

46.7

51.4

59.11

旧80

90

85

新85

同上

959,200

41.1

以降入居

高W値地区転入

124

2-108

周藤憲司

昭島市昭和町

2-5-18

同市拝島町

2367-5

(同市田中町

1-15-18)

33.6

42.3

旧80

85

80

同上

54.9.20

1

836,600

防音工事

125

2-109

吉岡正美

昭島市拝島町

2367

(同市田中町

1-15-18)

41.1

1

85

80

同上

53.3.31

1

659,800

41.1

以降入居

防音工事

126

2-110

小室清

昭島市拝島町

2214-3

(同市田中町

1-32-2)

42.5

85

80

同上

61.3.31

2

703,800

41.1

以降入居

防音工事

127

2-111

北林連次

昭島市拝島町

2208-2

(同市田中町

1-32-7)

42.11

85

80

同上

712,800

41.1

以降入居

128

2-112

田中靖雄

昭島市拝島町

2208-3

(同市田中町

1-32-9)

46.4

85

80

同上

57.3.25

2

660,600

41.1

以降入居

防音工事

別表第二損害賠償額算定計算式等一覧表

〔説明〕

1 損害賠償認容額(弁護士費用を含む)は総合計欄記載の金額(単位円、以下同じ)(賠償期間と賠償期間の各小計欄記載の金額の合計額)であり、別表第一・1・2の損害賠償額欄記載の金額と同額である。(本判決主文第一項1・(一)・(1))

2 前項の損害賠償認容額に対する遅延損害金は次の(一)及び(二)の合計額である。

(一)  賠償期間の合計欄記載の金員に対する遅延損害金については、右金員に対する本件各訴状送達日(別表第一・1記載の原告らについては昭和51年5月21日、同2記載の原告らについては昭和52年12月9日)の翌日以降各完済まで年五分の割合による金員

(二)  賠償期間の金員(同期間の各小計欄記載の金額の合計額)に対する遅延損害金については、各月当たり賠償金額欄記載の各金員毎に、右金員に対する各賠償期間欄中これに対応する各月の翌月1日以降各完済まで年五分の割合による各金員

3 転入欄は原告らが各居住地へ昭和41年1月1日以降入居したかどうかを示す項目であり、該当者は「○」印を付した。

4 賠償期間の月数は次の計算方法による。

(一) 期間の始期、期間中の転居、防音工事の施工又は期間の終期などの事実が月の途中の日に発生した場合は、当該月の残存日数が当該日を含めて16日以上であるときは右事実は当該月の初日に発生したこととし、15日以下であるときは翌月の初日に発生したこととする。

(二) W値80未満又は75未満の地域から当該居住地への転入または当該居住地から右地域への転出につき、その転出入の月は認定できるものの、日の不明な場合は、その月は期間の月数に算入しないこととする。

5 月当たりの賠償額が100円未満の端数を生ずるときは、これを算入しないこととする。

なお、月当たり賠償額のうち、その11分の10が慰藉料額であり、その11分の1が弁護士報酬額である。

6 計算式の一例(月当たり賠償額)

10,000×0.8×(1-0.1)×1.1=7,920≒7,900(円)

(W値90)(転入)(防音工事1室)(弁護士費用)(20円不算入)(月当たり賠償額)

付表 Ⅰ

月別飛行回数(測定回数)調べ・昭島市

(昭和55年~昭和60年)

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

1ヶ月

平均

1日

平均

55

1,548

1,185

1,104

1,167

940

1,077

739

908

993

1,076

1,028

1,770

13,535

1,128

38.3

56

1,063

878

1,167

962

1,026

994

1,042

904

967

767

1,187

1,039

11,996

1,000

32.9

57

934

991

1,303

1,050

895

957

1,011

854

1,016

1,102

1,104

1,497

12,714

1,060

35.0

58

1,182

1,016

1,074

839

916

947

891

1,077

1,467

989

1,119

11,517

1,047

34.4

59

1,040

849

1,148

947

1,178

1,026

963

962

990

1,211

1,102

1,360

12,796

1,066

35.3

60

2,263

1,487

1,769

1,007

820

860

487

835

868

1,791

1,327

2,553

16,067

1,338

48.3

付表Ⅱ

月別騒音発生回数調べ

(昭和54年~昭和60年)

年間合計

1ヶ月平均

1日平均

54

14,780

1,232

40.5

55

14,126

1,177

38.6

56

11,983

999

32.8

57

12,764

1,064

35.0

58

12,638

1,053

34.6

59

12,960

1,080

35.4

60

12,041

1,003

33.0

付表 Ⅲ

時間別(日中・夜間別)飛行回数調べ

(昭和53年~昭和60年)

区分

東京都

昭島市

総数

日中

(7:00~22:00)

夜間

(22:00~7:00)

総数

日中

(7:00~22:00)

夜間

(22:00~7:00)

年間

1日

平均

年間

1日

平均

年間

1日

平均

年間

1日

平均

年間

1日

平均

年間

1日

平均

53

13,341

36.6

12,507

34.3

834

2.3

13,325

36.5

12,497

34.2

828

2.3

54

14,780

40.5

13,961

38.3

819

2.2

14,133

40.8

55

14,126

38.6

13,321

36.4

805

2.2

13,535

38.3

12,788

36.2

747

2.1

56

11,983

32.8

11,461

31.4

522

1.4

11,996

32.9

11,489

31.5

507

1.4

57

12,764

35.0

12,276

33.6

488

1.3

12,714

35.0

12,232

33.7

482

1.3

58

12,638

34.6

12,049

33.0

589

1.6

11,517

34.4

11,007

32.9

510

1.5

59

12,960

35.4

12,450

34.0

510

1.4

12,796

35.3

12,271

33.9

505

1.4

60

12,041

33.0

11,599

31.7

442

1.2

16,067

48.3

15,000

45.1

1,067

3.2

付表 Ⅳ

固定測定地点における各種データの経年推移

項目

年次

48

49

50

51

52

53

54

55

56

57

58

59

60

騒音発生回数

(1日平均)

43.9

28.7

28.1

37.4

37.7

36.6

40.5

38.6

32.8

35.0

34.6

35.4

33.0

深夜・早朝(22:00~7:00)

騒音発生回数(1日平均)

8.4

4.6

4.1

2.7

2.0

2.3

2.2

2.2

1.4

1.3

1.6

1.4

1.2

ピークレベルのパワー

平均値(dB(A))

99

99

97

96

94

94

96

96

95

94

95

94

95

WECPNL値

93

92

89

88

85

85

87

87

85

85

86

85

85

付表 Ⅴ騒音発生回数及び昼間、夜間、深夜・早朝の騒音発生回数割合の経年推移

付表 Ⅵ

曜日別騒音発生回数調べ(昭和55年~昭和59年)

曜日

55

2,066

2,450

2,329

2,128

2,481

1,195

886

13,535

56

1,774

2,076

2,150

1,994

1,827

1,259

916

11,996

57

1,897

2,303

2,223

2,159

2,210

1,054

868

12,714

58

1,825

2,007

1,766

1,941

1,926

1,281

771

11,517

59

1,712

2,393

2,311

2,160

2,321

1,114

765

12,776

付表 Ⅶ

曜日別騒音発生回数(飛行回数)調べの内日曜日分の1日平均回数

(昭和54年~昭和60年)

区分

東京都

昭島市

年間

総数

日曜日

日曜日

1日平均

年間

総数

日曜日

日曜日

1日平均

54

14,780

19.0

14,133

938

19.2

55

14,126

(資料なし)

18.0

13,535

886

17.7

56

11,983

19.0

11,996

916

17.6

57

12,764

17.0

12,714

868

16.7

58

12,638

16.0

11,517

771

16.1

59

12,960

14.7

12,776

765

14.7

60

12,041

15.9

付表 Ⅷ1日平均騒音発生回数の経年推移

付表 Ⅸ騒音ピークレベルのパワー平均値(年間)の経年推移

付表 ⅩWECPNL値(年間)の経年推移

付表 XI

米国祝祭日における飛行回数一覧表

祝祭日

55年

56年

57年

58年

59年

60年

61年

元日

1月1日

9

14

8

11

6

23

29

キング牧師誕生日

1月

第三月曜日

74

(21日)

49

(19日)

31

(18日)

24

(17日)

32

(16日)

93

(21日)

22

(20日)

ワシントン大統領誕生日

2月

第三月曜日

21

(18日)

8

(16日)

8

(15日)

33

(21日)

20

(20日)

27

(18日)

26

(17日)

戦没者追悼記念日

5月

最終月曜日

18

(26日)

14

(25日)

17

(31日)

23

(30日)

26

(28日)

8

(27日)

6

(26日)

独立記念日

7月4日

20

29

15

25

12

15

労働祭

9月

第一月曜日

21

(1日)

14

(7日)

13

(6日)

33

(5日)

14

(3日)

17

(2日)

コロンブスデー

10月

第二月曜日

18

(13日)

29

(12日)

8

(11日)

15

(10日)

30

(8日)

49

(14日)

復員軍人の日

11月11日

15

20

16

22

10

13

感謝祭

11月

第四木曜日

23

(27日)

19

(26日)

18

(25日)

12

(24日)

15

(22日)

33

(28日)

クリスマス

12月25日

11

5

7

3

3

59

年間一日平均飛行回数

38.6

32.8

35.0

34.6

35.4

33.0

1.年間一日平均飛行回数は、付表Ⅵの「騒音発生回数(一日平均)」欄記載の数値と同じである。

2.各かっこ内の数は、祝祭日所定の曜日が各年度毎の当該月のうち該当する日を表す。

3.下線のある数字は、当該年度の平均飛行回数より上廻ることを示す。

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